「借金=悪」という思考停止から抜け出そう
「借金」という言葉を聞いて、あなたはどのようなイメージを抱くでしょうか。おそらく多くの人が「怖いもの」「人生を破滅させるもの」「絶対に避けるべきもの」といった、ネガティブな印象を持っていることでしょう。テレビドラマや映画の影響もあり、「借金=悪」という方程式が日本人の心の中には深く根付いています。
もちろん、無理な借り入れが人生を狂わせるケースがあるのは事実です。しかし、これから社会に出ていく高校生の皆さんに、大人の一人として最初にお伝えしておきたいことがあります。それは、「借金というシステムのすべてが悪いわけではない」という真実です。
資本主義という社会システムにおいて、お金を借りる仕組みを正しく理解していないことは、ルールを知らないままスポーツの試合に出場するようなものです。「借金=絶対悪」という思考停止の状態から抜け出し、借金の性質を見極める目を持つこと。それが、あなたがこれから長い人生を生き抜くための、強力な防具(盾)となります。
この記事では、世の中にあふれる「良い借金」と「悪い借金」の決定的な違い、そしてあなたの社会的信用を数値化する「クレジットスコア」という見えない成績表の存在について解説します。最後には、皆さんに最も身近な借金である「奨学金」を例に、具体的な返済ロードマップを考えてみましょう。
「良い借金」と「悪い借金」の決定的な違い
世の中には、大きく分けて2種類の借金が存在します。それは「未来の価値を高める良い借金」と、「未来の自分を食いつぶす悪い借金」です。この境界線を理解できるかどうかが、金融リテラシーの第一歩となります。
未来の価値を高める「良い借金」(投資とレバレッジ)
「良い借金」とは、端的に言えば「借りた金額以上の価値(リターン)を将来生み出してくれる借金」のことです。代表的なものに、住宅ローンや、企業が事業を拡大するための事業資金の借り入れ、そして後述する奨学金(自己投資)などが挙げられます。
ここでぜひ知っておいてほしいのが、「レバレッジ(てこの原理)」という概念です。 たとえば、あなたが将来、自分の会社を立ち上げてビジネスを始めたいと考えたとします。手元には100万円しかありません。この100万円だけでビジネスを始める場合、得られる利益にも限界があります。しかし、銀行から事業計画を評価され、追加で900万円を低い金利で借りることができれば、合計1,000万円を元手に大きなビジネスを展開できます。結果として、借金の利息を上回る大きな利益を上げることができれば、その借金は「あなたを豊かにするための強力なツール」として機能したことになります。
このように、他人の資本(お金)を利用して、自分自身の力だけでは到達できない大きな成果を生み出すことを「レバレッジを効かせる」と言います。将来の資産形成やスキルアップにつながる明確な計画とリターンが見込める場合、借金は決して悪ではなく、むしろ賢い選択になり得るのです。
未来の自分を食いつぶす「悪い借金」(浪費と消費)
一方で、私たちが絶対に避けなければならないのが「悪い借金」です。これは「将来、何も価値を生み出さないもの」にお金を使うための借金です。
たとえば、最新のブランドバッグや高級時計が欲しくてクレジットカードで分割払いをする、あるいは、生活費が足りないからといってカードローンでお金を借りて飲み会に行く、といった行為です。これらは「消費」や「浪費」に分類されます。
買った瞬間に価値が下がるものや、一時的な快楽のためにお金を借りることは、あなたの「未来の収入を先食いしている」ことに他なりません。借金をしてまで手に入れたものは、利息という重い負担を伴って、将来のあなた自身の首をゆっくりと絞めていくことになります。
リボ払いやカードローンが「最悪の選択」である理由
悪い借金の中でも、絶対に手を出してはいけないのが「リボ払い(リボルビング払い)」や「消費者金融のカードローン」です。これらが最悪の選択と言われる理由は、「金利の高さ」と「複利の恐ろしさ」にあります。
クレジットカードのリボ払いやカードローンの金利(実質年率)は、おおよそ15%前後に設定されていることが一般的です。銀行に預金をしても金利が0.001%程度しかつかない時代に、15%という金利がいかに異常な数字か、少し想像してみてください。
たとえば、50万円を金利15%で借り、毎月1万円ずつ返済していくとします。この場合、最初の月に支払う1万円のうち、半分以上の約6,000円は「利息」として消えてしまい、元本(借りたお金)は4,000円しか減りません。返済しても返済しても借金が減らないという蟻地獄のような状態に陥ります。気づいたときには、借りた額の倍以上の金額を支払わなければならないケースも珍しくありません。日常のちょっとした贅沢のために、このような法外な利息を支払い続けるのは、金融リテラシーの観点から見てあまりにも危険です。
あなたの「信用」は筒抜け?見えない成績表「クレジットスコア」
ここまでは借金の性質についてお話ししてきましたが、ここからは、社会における「信用」というシステムの裏側についてお伝えします。
信用情報機関(CICなど)という存在
あなたは、クレジットカードで買い物をしたとき、なぜ手元にお金がなくても商品を受け取れるのか不思議に思ったことはありませんか? それは、クレジットカード会社があなたを「信用」して、一時的にお店へ代金を立て替えてくれているからです。
しかし、カード会社はあなたの性格や人柄を直接知っているわけではありません。では、どうやって信用を判断しているのでしょうか。ここで登場するのが「信用情報機関」です。日本にはCIC(指定信用情報機関)などをはじめとする機関が存在し、個人の金融取引に関するデータがすべて集約されています。
あなたが新しくクレジットカードを作ったこと、いつ、いくら買い物をしたか、スマホを分割払いで買った履歴、そして「毎月約束通りに支払っているか」といった情報が、事細かに記録されているのです。これは、金融業界におけるあなたの「内申点(クレジットスコア)」のようなものだと考えてください。このスコアが高ければ、将来お金を借りる際に有利な条件で借りられますが、スコアが低ければ、社会的なペナルティを受けることになります。
たった数回の「うっかり延滞」がもたらす致命傷
高校生や大学生が最も陥りやすい罠が、スマホ本体代金の「分割払い」の引き落とし遅れです。「たった数千円、数日遅れただけだから平気だろう」と軽く考えていると、取り返しのつかないことになります。
クレジットカードや分割払いの支払いを一定期間(おおむね61日以上、または3ヶ月以上)延滞すると、信用情報機関のデータベースに「異動」という文字が記録されます。これが、世間一般で言う「ブラックリストに載る(金融事故)」という状態です。
一度この記録がついてしまうと、借金を全額返し終わってから5年間は記録が消えません。その間、新しいクレジットカードを作ることはできず、車や家を買うときのローン審査にはほぼ100%落ちてしまいます。さらに、最近ではアパートを借りる際の家賃保証会社の審査にも信用情報が使われることが増えており、一人暮らしの部屋すら借りられなくなる可能性があります。また、一部の金融機関など、特定の職種では就職活動に影響が出るリスクもゼロではありません。
あなたの軽はずみな「うっかり延滞」が、将来の重要なライフイベントの選択肢を奪ってしまう恐れがあるのです。社会に出れば、「約束通りにお金を払う」というたった一つの行動が、あなたの信用そのものを形成していることを忘れないでください。
【実践ワーク】奨学金300万円の「返済ロードマップ」を思い描く
借金の性質と信用の重要性を理解したところで、最後に、皆さんにとって最も現実的な借金である「奨学金」について考えてみましょう。
奨学金は「最大の自己投資」という名の借金
大学や専門学校に進学するために、日本学生支援機構などの貸与型奨学金(卒業後に返す必要があるもの)を利用する学生は非常に多く、全体の約半分とも言われています。
教育によって専門的な知識やスキルを身につけ、将来の収入を増やすための借金ですから、奨学金は典型的な「良い借金」と言えます。しかし、本質的には借金であることに変わりはありません。無計画に借りてしまうと、卒業後のあなたの生活を重く圧迫する「見えない鎖」となってしまいます。
300万円の返済タイムラインとライフイベントへの干渉
ここでは、大学4年間で合計300万円の貸与型奨学金(第二種・有利子を想定)を借りた場合の、リアルなシミュレーションを行ってみましょう。
大学を卒業して社会人になった直後、秋頃から返済がスタートします。300万円を金利等の条件にもよりますが約20年間(240回払い)で返すとなると、毎月の返済額はおおよそ「1万4,000円〜1万5,000円」程度になります。
「月に1.5万円くらいなら払えるだろう」と思うかもしれません。しかし、新入社員の手取り給与はおおよそ18万円〜20万円程度です。そこから、家賃、光熱費、食費、通信費、交際費を支払っていくと、手元に残るお金は決して多くありません。毎月確実に1.5万円が引かれていくのは、精神的にも金銭的にもボディーブローのように効いてきます。
そして何より恐ろしいのが、「20年間」という期間です。22歳で卒業したとして、完済するのは「42歳」です。その20年間の間に、あなたには様々なライフイベントが訪れるはずです。
・25歳:友人の結婚式ラッシュでご祝儀が重なる。
・28歳:自分自身の結婚。引越し費用や結婚式費用。
・30歳:子どもの誕生。教育費の積み立て開始。
・35歳:マイホームの購入検討。住宅ローンの審査。
これらの重要なイベントの最中も、常に「月1.5万円の奨学金返済」が並行して存在し続けるのです。結婚相手に「実はまだ奨学金の返済が200万円残っている」と打ち明けるタイミングで、少なからずストレスを感じる人も多いのが現実です。
だからこそ、高校生の今のうちから「自分は将来どんな生活を送りたいか」「そのために本当に奨学金を借りる必要があるか」「借りるにしても、必要最小限の額に抑えられないか」を真剣に計算し、あなた自身の返済ロードマップを描いておく必要があるのです。
まとめ:あなたの人生を守る最大の資産は「信用」である
ここまでの内容を振り返りましょう。 借金はすべてが悪ではなく、価値を生む「良い借金(投資)」と価値を下げる「悪い借金(浪費)」を見極めることが重要です。特にリボ払いやカードローンには決して近づいてはいけません。そして、あなたの支払い状況はすべて記録され、見えない成績表である「クレジットスコア」としてあなたの将来を左右します。身近な奨学金であっても、将来のライフイベントを見据えたシミュレーションが不可欠です。
お金の知識は、誰かが勝手に教えてくれるものではありません。しかし、正しい知識を持っていれば、それはあなたの人生を守る強固な盾となり、夢を実現するための強力な武器になります。
これから社会に出る皆さんが、お金に振り回されることなく、自らの力で未来を切り拓いていけるよう、心から応援しています。あなたの人生における最大の資産は、銀行口座の残高ではなく、あなた自身の「社会的な信用」なのですから。
c) 免責事項
- 本記事で紹介している金利、返済額、信用情報機関の仕組み等に関する数値や条件は、一般的な目安に基づくシミュレーションです。実際の借入条件や審査基準、奨学金の制度は利用する機関や契約時期によって異なります。必ず各金融機関や日本学生支援機構(JASSO)などの公式サイトにて最新の正確な情報をご確認ください。