君たちは今、「不利なルール」のゲームに参加させられている
やあ。前回の「お金の歴史」の話から少し時間が空いたね。またこうして話せて嬉しいよ。
今日は、少し刺激的な話をしようと思う。君たちは学校や家庭で「真面目に働くことが美徳だ」と教わってきただろうし、それは間違いなく真実だ。社会は誰かの労働で回っているし、労働こそが価値を生む源泉だからね。
でも、**「真面目に働いて貯金さえしていれば、将来は安泰だ」**という教えに関しては、残念ながら半分は嘘で、半分は時代遅れだ。
君たちがこれから参加する「資本主義」という巨大なゲームには、残酷なルールがある。フランスの経済学者トマ・ピケティが証明した**「r > g(アール・大なる・ジー)」**という式を聞いたことがあるかな?
これは、**「資産運用から得られる利益率(r)は、労働によって給料が増えるペース(g)よりも常に高い」**という歴史的な事実を示した数式だ。つまり、汗水垂らして働くだけの人よりも、お金にお金を稼がせている(投資している)人の方が、圧倒的なスピードで豊かになっていくということなんだ。
悔しいけれど、これが現実だ。だからこそ、君たちには「労働者」であると同時に「投資家」であってほしい。
そして今日話すのは、その投資の世界において、国がこっそり(いや、最近は大っぴらに)用意してくれている**「公式チートアイテム」**の話だ。ゲームで言えば、装備するだけでダメージを無効化したり、経験値が倍増したりするような強力なアイテムだと思っていい。
その名は**「NISA(ニーサ)」と「iDeCo(イデコ)」**。
大人たちが難しそうな顔で議論しているこの言葉の正体、そしてそれをどうやって高校生の君たちが「ハック(攻略)」すべきか。今日はその全貌を解き明かしていこう。
第1章:なぜ国は急に「貯蓄から投資へ」と言い出したのか?
そもそも、なぜ最近になって国やメディアは「投資しろ、投資しろ」とうるさいのだろう? 親世代(今の40代〜50代)や祖父母世代は「銀行に預けなさい」と言っていたはずだ。
この方針転換には、国が抱える「焦り」と、君たちの資産を脅かす「見えない敵」の存在が関係している。
少子高齢化と年金問題のリアル
君たちも社会の授業で習った通り、日本は超少子高齢化社会だ。
昔は「数人の若者で1人の高齢者を支える(騎馬戦型)」社会だったのが、今は「1人の若者が1人の高齢者を支える(肩車型)」になりつつある。
国としては、国民全員の老後を年金だけでリッチに支えることが、物理的に不可能になってきているんだ。「年金が破綻する」とまでは言わないけれど、「年金だけで優雅な生活ができるとは思わないでほしい」というのが本音だろう。
そこで国は方針を変えた。
「自分たちの老後資金は、国に頼り切らず、自分たちである程度増やして作ってください。その代わり、投資をしやすくする『優遇制度』を用意しますから」
これが、NISAやiDeCoが拡充された背景にあるメッセージだ。つまり、「自助努力」を促すためのアメなんだよ。
インフレという「見えない税金」
もう一つの敵は「インフレ」だ。
「物価が上がる」ということは、裏を返せば「お金の価値が下がる」ということだ。
例えば、今100円で買えるハンバーガーが、来年110円になったとする。もし君が銀行に100円を預けていて、金利がほぼ0%なら、来年の君の100円ではもうハンバーガーは買えない。これは、何もしていないのに資産が目減りしたのと同じことだ。
銀行預金の金利が0.001%というような超低金利時代において、銀行にお金を置いておくことは「安全」ではない。むしろインフレによって確実に資産を削り取られていく「緩やかな敗北」なんだ。
だからこそ、インフレ率(物価上昇率)以上に増える場所に資産を移さなければならない。それが「投資」が必要な理由だ。
第2章:「税金を払わない」という最強のハック
さて、ここからが本題だ。投資でお金を増やす必要があることは分かった。では、なぜNISAやiDeCoを使う必要があるのか? 普通の証券口座で株を買うのではダメなのか?
ここで登場するのが、**「税金」**という名のペナルティだ。
投資の利益には「約20%」の罰金がかかる
日本のルールでは、投資で得た利益には**約20.315%**の税金がかかる。
計算しやすいように「約20%」としよう。
例えば、君が頑張って勉強して投資を行い、100万円の利益が出たとしよう。
「やった!100万円儲かった!」と喜ぶのは早い。国がやってきて、こう言うんだ。
「おめでとう。ではルール通り、20万円は税金として徴収しますね」
手元に残るのは80万円。
1000万円儲かったら、200万円持っていかれる。これはデカイよね。高級車が買える金額が、税金として消えてしまうんだ。
通常の世界(特定口座などの課税口座)では、この「20%の税金」は避けられないコストだ。投資家たちは、この税金を払った上で利益を出そうと必死になっている。
NISAとiDeCoは「公認の非課税ゾーン」
ところが、NISAやiDeCoという口座の中で投資をした場合、このルールが根底から覆る。
「この枠内での投資なら、どれだけ利益が出ても税金はゼロでいいですよ」
これが国の用意した優遇制度だ。
- 利益が100万円なら、100万円まるごと君のもの。
- 利益が1000万円なら、1000万円まるごと君のもの。
この「20%を払わなくていい」という効果は、投資の世界では**とてつもないアドバンテージ(有利な条件)**になる。プロの投資家が血眼になって1%や2%のリターンを追求している中で、君たちは「制度を使うだけ」で実質的に利益を20%底上げできるようなものだからだ。
これを使わない手はない。まさに「公認のハック」だと言えるだろう?
第3章:【ワーク】65歳時点の資産シミュレーション
言葉だけでは実感が湧かないかもしれない。ここで実際に数字を使ってシミュレーションしてみよう。
金融庁の公式サイトには「資産形成シミュレーター」という便利なツールがあるんだけど、今回は私が代わりに計算してみたよ。
条件設定:君が就職してから40年間
- スタート: 25歳(就職して少し落ち着いた頃からと仮定)
- ゴール: 65歳(老後資金の準備完了)
- 期間: 40年間
- 積立額: 毎月3万円(飲み会を数回我慢すれば捻出できる金額だ)
- 想定利回り: 年利4%(全世界の株式に分散投資した場合の、過去の実績に基づく現実的な数字)
さて、どうなると思う?
毎月3万円をタンス預金(金利0%)で貯めた場合、
3万円 × 12ヶ月 × 40年 = 1,440万円
これが元本だ。これでも十分大金だけど、40年後の物価を考えると少し心許ない。
では、年利4%で運用した場合はどうなるか。
驚愕の結果:複利の魔法
計算結果はこうだ。
- 元本: 1,440万円
- 運用益: 約2,030万円
- 最終資産額: 約3,470万円
見てほしい。自分が積み立てた1,440万円よりも、投資で増えた利益(2,030万円)の方が大きくなっている。これが、アインシュタインが「人類最大の発明」と呼んだ**「複利(ふくり)」**の力だ。時間が経てば経つほど、雪だるま式にお金が増えていく。
高校生の君たちが持っている最大の武器は、お金ではなく「時間」だ。この40年という長い時間を味方につけられるのは、若者の特権なんだよ。
重要なのはここから:「課税」vs「非課税」の差額
さて、ここで先ほどの「税金」の話に戻ろう。
利益が約2,030万円出た。
【パターンA:普通の口座で運用した場合】
利益2,030万円に対して、約20%の税金がかかる。
税額:約406万円
手取り利益:約1,624万円
最終手取り額:約3,064万円
【パターンB:NISA(非課税)で運用した場合】
利益2,030万円に対する税金はゼロ。
税額:0円
手取り利益:2,030万円
最終手取り額:約3,470万円
その差、なんと約406万円。
ただ「NISA口座を使ったかどうか」。
やることは同じ(毎月3万円を積み立てる)。買う商品も同じ(世界株などの投資信託)。
ただ「入れ物」を変えただけで、400万円以上の差が生まれるんだ。
400万円あれば何ができる? 世界一周旅行もできるし、家のリフォームもできる。子供(君の将来の子供だね)の学費にもなる。
この400万円を「税金として払う」か「自分と家族のために使う」か。
NISAを知っているか知らないかだけで、これだけの格差が生まれる。これが「制度ハック」の威力だ。
第4章:武器の使い分け:NISA(攻め)とiDeCo(守り)
「NISA」とセットでよく聞く「iDeCo(イデコ)」。
どちらも非課税の制度だけど、性質が少し違う。君たち高校生にとっては、今の段階では**「NISAがメインウェポン」で、iDeCoは「将来のための予備知識」**と捉えておくといい。
それぞれの特徴をRPGの装備に例えて解説しよう。
NISA(ニーサ):いつでも引き出せる「自由の剣」
- 対象年齢: 18歳以上(成人すれば誰でも作れる)
- 最大の特徴: いつでも売却して現金化できる。
これが最強たる所以だ。
人生には何が起こるかわからない。急に留学したくなるかもしれないし、結婚資金が必要になるかもしれない。そんな時、NISAなら積み立てた資産をすぐに解約して使うことができる。
しかも2024年から始まった「新NISA」は、生涯で1,800万円まで投資できる巨大な枠がある。
高校生の君たちが18歳になったら、まず作るべきはこのNISA口座だ。とりあえず月1,000円からでもいい、「証券口座を開いて、NISA枠を使う」という経験自体が、君のマネーリテラシーを爆発的に高める。
iDeCo(イデコ):老後まで開かない「鉄の盾」
- 対象年齢: 20歳以上(原則)
- 最大の特徴: 60歳になるまで原則引き出せない(ロックされる)。
- もう一つの特徴: 掛け金が全額「所得控除」になる(税金が安くなる)。
iDeCoは「年金」を作るための制度だから、国は「老後まで絶対に使わせないぞ」という強力なロックをかける。その代わり、「今払っている所得税や住民税を安くしてあげるよ」という強力なメリットをくれるんだ。
しかし、ここが重要なポイントだ。
学生の君たちは、まだ働いていないから「所得税」を払っていないよね?
税金を払っていない人がiDeCoをやっても、「節税メリット」が受けられないんだ(利益が非課税になるメリットはあるけれど、資金拘束のデメリットが大きすぎる)。
だから、高校生の君たちへのアドバイスはこうだ。
「まずはNISA。iDeCoは、社会人になって税金をガッツリ払うようになってから検討する『守りの切り札』として取っておけ」
第5章:結論・最適解は「早く始めて、長く続けること」
今日は少し難しい数字の話もしたけれど、伝えたかったことはシンプルだ。
- 資本主義には「r>g」というルールがある。
- 投資をしないと、インフレで資産が溶ける。
- 投資をするなら、NISAを使って「20%の税金」を回避せよ。
- 18歳になったらNISA。社会人になったらiDeCoも検討。
君たちが今、今日からできること
まだ18歳になっていない君たちにできることはないのか? いや、ある。
それは**「親と話すこと」**だ。
今日知った「毎月3万円・40年後の400万円の差」の話を、夕食の時にでも親御さんにしてみてほしい。「ねえ、うちはNISAやってるの? 複利って知ってる?」と。
もしかしたら、親御さんは忙しくて、あるいは知識がなくて、まだやっていないかもしれない。君がこの知識を家に持ち帰ることで、家計が助かるかもしれない。それは立派な親孝行だし、君自身の進学資金を守ることにも繋がる。
そして、君自身が18歳になったその日。
スマホゲームのガチャを回す前に、証券会社のアプリをダウンロードしてほしい。
最初はお年玉の一部やバイト代の数千円でいい。
「自分は労働者であると同時に、資本家(投資家)としての第一歩を踏み出したんだ」
その感覚を持つことが、君の人生を、他の誰よりも自由で豊かなものにしてくれるはずだ。
お金の話は、汚い話じゃない。自分の未来を守る、とても神聖で戦略的な話なんだ。
君たちがこの「賢いハック」を使って、したたかに、そして自由に生きていくことを願っているよ。
それじゃあ、また次の講義で会おう。
免責事項
※本記事は金融リテラシー向上を目的とした情報提供であり、特定の金融商品の勧誘や売買の推奨を目的としたものではありません。
※シミュレーション結果は過去のデータや仮定に基づく概算であり、将来の運用成果を保証するものではありません。投資には元本割れのリスクが伴います。
※NISAやiDeCoの制度内容は、執筆時点(2026年)の情報に基づいています。法改正により変更される可能性がありますので、最新情報は金融庁や厚生労働省の公式サイトをご確認ください。
※最終的な投資判断は、必ずご自身の責任において行ってください。