【高校生からの金融入門】その医療保険、本当に必要?日本最強のセーフティネット「公的保険」を使い倒す技術

日本人は「不安」にお金を払いすぎている?

こんにちは。今日は少し、これから社会に出ていく君たちへ、そして毎日を懸命に生きている大人たちへ、「お金と不安」についての話をしようと思います。

日本は世界でも有数の「保険大国」と言われています。生命保険文化センターの調査などを見ると、日本の世帯の約9割近くが何らかの生命保険(民間保険)に加入しているというデータもあります。就職したら、結婚したら、子供が生まれたら……人生の節目のたびに「とりあえず保険に入っておかないと不安だ」と考える人は非常に多い。

もちろん、万が一のリスクに備えることは大切です。でも、少し立ち止まって考えてみてほしいのです。

私たちは一体、**「何に対して」**お金を払っているのでしょうか?

多くの人は、保険の内容(商品スペック)そのものではなく、「漠然とした不安を消すための安心感」を買っています。しかし、もしその不安の正体が、「実はすでに守られている」ものだとしたらどうでしょう? 必要のない防具にお金を払い続け、本当に必要なこと(自己投資や資産形成)にお金が回らないとしたら、それは本末転倒ですよね。

今回は、高校生の金融リテラシー講座の一環としていますが、これは大人が読んでもハッとする内容になるはずです。テーマは**「日本の公的保険を使い倒せ」**。

民間保険のパンフレットを開く前に、まずは手元にある「最強のカード」について深く理解しましょう。これを知るだけで、生涯で数百万円単位の資産の差が生まれる可能性がありますよ。

民間保険に入る前に。あなたが既に持っている「最強のカード」とは

君たちの財布の中、あるいはスマートフォンの裏に入っているかもしれない「健康保険証」。病院に行くときに受付に出すと、診察代が安くなるカード。 その認識だけでは、あまりにももったいない。

このカードは、世界的に見てもトップクラスに手厚い**「最強の民間キラー保険」**の加入者証なのです。

健康保険証は「魔法のカード」である

まず基本をおさらいしましょう。私たちが病気や怪我で病院にかかったとき、窓口で支払うのは医療費の全額ではありません。 義務教育就学後から69歳までなら**「3割負担」**です。つまり、治療費が1万円かかっても、支払うのは3,000円で済みます。

これだけでも十分ありがたい制度ですが、公的保険の真価はここではありません。「風邪薬が安くなる」程度のものではないのです。本当の力は、人生を揺るがすような「大きな病気や怪我」をしたときに発揮されます。

「もし大きな手術をして、入院費が100万円かかったらどうする?」

保険のセールスマンがよく使うフレーズです。3割負担でも30万円。高校生や若手社会人にとって、30万円の急な出費は大打撃ですよね。「だからこそ、民間の医療保険に入っておきましょう」というセールストークが続きます。

でも、ここで騙されてはいけません。日本には、**「高額療養費制度」**という無敵の盾が存在するからです。

医療費が青天井にならない「高額療養費制度」

この制度を一言で言うなら、**「1ヶ月にかかる医療費の自己負担には、上限(キャップ)がある」**という仕組みです。

いくら医療費がかかっても、青天井に支払いが増えるわけではありません。所得によってその上限額は異なりますが、一般的な年収(約370万円〜770万円)の会社員であれば、自己負担の上限は**「月額8万円〜9万円程度」**に設定されています。

計算式は少し複雑ですが、ざっくり言うとこうです。

80,100円 + (総医療費 – 267,000円) × 1%

例えば、手術や入院で医療費の総額が100万円かかったとします。 3割負担なら窓口で30万円を支払うことになりますが、高額療養費制度を申請すれば、実際に最終的な負担となるのは約8万7千円ほどで済みます。 差額の約21万円以上は、あとから戻ってくるか、事前に「限度額適用認定証」を提示していれば窓口での支払い自体が免除されます。

さらにすごいのが**「多数回該当」というルール。 直近12ヶ月以内に、この高額療養費の上限に達する月が3回以上あった場合、4回目からは上限額がさらに下がり、「月額44,400円」**になります。

つまり、どんなに重い病気にかかって毎月入院し続けたとしても、公的保険に加入している限り、日本の医療費システムでは「個人の支払いで家計が破綻する」ことは極めて起こりにくいように設計されているのです。

「入院したら1日1万円もらえる保険」に入っていたとして、その保険料が月々数千円。 でも、公的制度を使えば、実質の負担は月に9万円弱。もし君が**「貯金50万円」**を持っていたらどうでしょう? 医療保険からの給付金を待たずとも、自分の貯金で十分に賄えますよね。これが「貯蓄こそが最強の保険」と言われる所以です。

会社員なら知っておくべき「働けなくなった時」の保障

医療費(出ていくお金)の心配はこれでだいぶ減ったと思います。次に心配なのは、「入院して会社を休んでいる間、給料が入ってこない(入ってくるお金が止まる)」ことではないでしょうか。

ここでも、会社員(健康保険加入者)には強力な武器が用意されています。それが**「傷病手当金」**です。

給料の約3分の2が補償される「傷病手当金」

病気や怪我で会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合、健康保険から手当金が支給されます。

  • 支給額: 1日あたりの給与(標準報酬月額)の約3分の2
  • 支給期間: 支給開始日から通算して1年6ヶ月

例えば、月給30万円の人が入院して働けなくなった場合、月額約20万円が非課税で振り込まれます。 働けなくても、今の生活水準を維持するための最低限のお金は確保できるのです。

「就業不能保険」や「所得補償保険」という民間商品もありますが、まずはこの傷病手当金の存在を知り、それでも足りない分だけを検討すべきです。 ちなみに、この傷病手当金は、自営業者やフリーランスが加入する「国民健康保険」には原則としてありません。これは会社員(サラリーマン)だけが持つ特権的な強みです。もし君が将来会社員になるなら、この権利を最大限に行使する前提でマネープランを立てるべきです。

障害年金という「永続的なセーフティネット」

さらに、もし病気や怪我が治らず、障害が残ってしまった場合はどうなるか。ここには**「障害年金」**というセーフティネットが待っています。 これは高齢者がもらう「老齢年金」とは別物で、現役世代であっても、所定の障害状態になれば受け取ることができます。

このように、日本の公的保障は「医療費の負担増」と「収入の減少」の両面から、私たちを何重にも守ってくれているのです。

【実践ワーク】保険の断捨離シミュレーション

さて、ここまでの話を聞いて、「なんだ、じゃあ保険なんて何もいらないじゃん」と思ったかもしれません。 極論を言えばそうかもしれませんが、もう少し冷静に**「保険の断捨離」**をシミュレーションしてみましょう。これは、君のリスク許容度を測るワークでもあります。

あなたに必要な「防衛資金」を計算しよう

民間保険に入るべきかどうかの基準は、**「トラブルが起きたとき、手元の貯金で解決できるか?」**という一点に尽きます。

まず目指すべきは**「生活防衛資金」**の確保です。 一般的には、生活費の3ヶ月〜6ヶ月分と言われています。 高校生の君なら、まだ実感がないかもしれませんが、例えば将来一人暮らしをして月の生活費が20万円だとしましょう。 その場合、60万円〜120万円の貯金があれば、失業しても病気をしても、半年間は何もせずに生きていけます。

これに加えて、先ほどの高額療養費制度を考慮した「医療予備費」として、プラス30〜50万円程度を手元に置いておけるなら、もはや医療保険の必要性は限りなくゼロに近づきます。

  • ワーク: 自分の(将来の)生活費を書き出し、必要な防衛資金を計算してみよう。
    • 月生活費:__万円
    • 目標貯金額(×6ヶ月):__万円
    • 医療予備費:+50万円
    • 合計ターゲット額:__万円

この金額が貯まるまでは、最小限の「県民共済(月2,000円程度で入院保障などがある)」などで繋ぎ、目標額が貯まった瞬間に解約して「セルフインシュアランス(自家保険)」に切り替える。これが最も合理的な戦略の一つです。

その「日額5,000円」の保険、本当に割に合ってる?

よくある「入院したら1日5,000円」の医療保険。月々の保険料が2,000円だとします。 30年間払い続けると、72万円です。

一方、今の医療は「入院期間の短縮化」が進んでいます。 厚生労働省のデータを見ても、多くの入院は短期で終わります。仮に10日入院したとしても、もらえるのは5万円。 72万円払って、5万円を受け取る。もちろん、何度も入院する可能性はゼロではありませんが、確率論で言えば、保険会社が儲かるようにできているのが保険です(そうでなければ保険会社は潰れてしまいます)。

保険というのは本来、**「発生確率は極めて低いが、起きたら人生が破綻するような巨大な損失」**に備えるためのものです。 具体的には、「自動車事故での億単位の賠償」「火災」「幼い子供を残しての大黒柱の死亡」。これらは貯金では賄えません。だから保険が必要です。

しかし、「数十万円〜百万円程度の医療費」は、人生を破綻させるほどの金額ではありません。それは貯蓄で備えるべきリスクなのです。

浮いた固定費こそ、未来への最強の投資になる

「保険に入らないと不安」という感情を乗り越え、公的保険の強さを理解した君は、毎月の固定費を数千円〜1万円単位で節約できるはずです。

では、その浮いたお金をどうするか? ここが最も重要なポイントです。 使ってしまっては意味がありません。そのお金こそ、将来の自分を助けるための**「投資の種銭」**にするのです。

例えば、無駄な保険料として消えていたはずの**「月5,000円」**を、利回り年5%でS&P500(米国株式)などのインデックスファンドで運用したとしましょう。NISA(少額投資非課税制度)を使えば利益は非課税です。

  • 10年後: 元本60万円 → 運用益含め約77万円
  • 20年後: 元本120万円 → 運用益含め約205万円
  • 30年後: 元本180万円 → 運用益含め約416万円

どうでしょうか? 保険として払っていたら「何もなければ掛け捨て(ゼロ)」だったお金が、投資に回すことで「400万円」という大きな資産に化ける可能性があるのです。 この400万円こそが、将来どんな病気になっても、どんな挑戦をしたくなっても、君を支えてくれる本当の「最強の保険」になるはずです。

まとめ:知識武装こそが最大の保険である

今日の話をまとめましょう。

  1. 公的保険を知る: 健康保険証は「3割負担」だけでなく、「高額療養費制度(月9万円の上限)」や「傷病手当金(給料の2/3補償)」を備えた最強のパッケージである。
  2. リスクを切り分ける: 貯金で払えるリスクに保険をかけるな。「破滅的なリスク」だけに保険を使え。
  3. 防衛資金を作る: 生活費の半年分 + 医療費予備費があれば、多くの民間保険は不要になる。
  4. 浮いたお金は投資へ: 保険料を払う代わりに、NISAなどで資産形成をすることで、本当の安心(資産)を手に入れる。

「知らない」ということは、それだけで搾取されるリスクを負います。 逆に、国の制度を正しく「知っている」だけで、無駄な出費を抑え、資産を増やすことができる。

これが、私が君たちに伝えたかった「金融リテラシー」の本質です。 社会に出ると、たくさんの「不安」を煽る広告やセールスに出会うでしょう。その時は、今日話した「公的保険という最強の盾」を思い出してください。そして、堂々とこう言ってやってください。

「私はもう、十分守られているので大丈夫です」と。

さあ、まずは自分の家の本棚や親の書類整理を手伝ってみませんか? もしかしたら、そこには「お宝(解約すべき不要な保険証券)」が眠っているかもしれませんよ。



免責事項

【免責事項】 本記事は、2026年時点での日本の公的医療保険制度、および一般的な金融知識に基づいた解説です。制度の内容や数値(高額療養費の自己負担限度額、傷病手当金の支給条件など)は、法令の改正により変更される場合があります。 また、本記事は民間保険の解約を一律に推奨するものではありません。家族構成、資産状況、個人のリスク許容度によって必要な保障は異なります。保険の見直しや投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。

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