スマホをかざせば物が買えると思っている君へ。親が教えるべき「見えないお金」と「信用の約束」

はじめに:そのスマホは「魔法の杖」ではない

先日、ある知人からこんな相談を受けました。 「小学生の息子が、私のスマホを使って勝手にゲームの課金をしていたんだ。数千円だったから払えたけれど、叱ったら『だって、スマホをかざせばいいんでしょ?』と悪びれずに言うんだよ」と。

背筋が凍るような話ですが、これは決して彼だけの問題ではありません。

私たち40代が子供の頃、お小遣いは「現金」でした。100円玉を握りしめて駄菓子屋に行き、手から小銭が離れていく「重み」や「痛み」を感じながら、買い物のルールを学んできました。しかし、現代の子供たちは違います。生まれた時から電子マネーやクレジットカードが当たり前の「キャッシュレス・ネイティブ」です。彼らにとって、買い物とは「端末をかざすと商品が手に入る儀式」であり、そこにお金という実体が介在している感覚は極めて希薄です。

「お金を持っていなくても買い物ができる」。 この事実は、子供たちにとってはまるで魔法のように映るかもしれません。しかし、私たちは知っています。それは魔法などではなく、社会における最も重い契約の一つであることを。

今回は、キャッシュレス時代を生きる子供たちに、親としてどうしても伝えておかなければならない「見えないお金の正体」と、その根幹にある「信用(クレジット)」という概念についてお話しします。そして、家庭でできる少し怖いけれど効果絶大な「約束やぶりシミュレーション」というワークショップもご紹介しましょう。

これは単なる節約の話ではありません。将来、あなたのお子さんが社会的な「信用」を失い、人生の選択肢を狭めてしまわないための、愛ある「守り」の教育です。


第1章:「後払い」が許される本当の理由

まず、子供たちが抱いている「お金がなくても物が買える」という誤解を解くところから始めましょう。 なぜ、見ず知らずの店員さんが、お金を払っていないあなたに商品を渡してくれるのでしょうか?

魔法ではなく「約束」でできている

子供にこう問いかけてみてください。 「もし、一度も会ったことのない人が『あとでお金払うから、そのゲーム機ちょうだい』って言ってきたら、あげる?」

答えは間違いなく「NO」でしょう。泥棒かもしれないし、本当に払ってくれるかわからないからです。 しかし、クレジットカードやスマホ決済では、それが成立しています。なぜなら、そこには「クレジットカード会社」という仲介役がいて、「この人は絶対に後でお金を払う人物です」と保証してくれているからです。

つまり、電子マネーやカード決済の本質は、「お金のやり取り」以前に、「信用のやり取り」なのです。 「今は手元にお金がないけれど、来月必ず払います」という約束を、社会全体が信じてくれている状態。これがキャッシュレスの正体です。

クレジット=「信じて任せる」

英語の「Credit(クレジット)」には、「信用」「信頼」「名声」という意味があります。語源はラテン語の「credo(信じる)」です。 クレジットカードとは、直訳すれば「信用カード」。つまり、「私は約束を守る人間です」という証明書なのです。

このカードを持っているということは、過去に「約束を破らなかった実績」があるということです。逆に言えば、どんなにお金持ちでも、約束を破り続けた人はこのカードを持つことができません。 子供たちには、まずこの大原則を教える必要があります。 「スマホがお金を払っているんじゃない。パパやママが今まで『約束を守り続けてきた歴史』が、支払いを肩代わりしているんだよ」と。


第2章:見えないお金と「信頼残高」の哲学

ここから少し、視座を深めていきましょう。 私たち大人は、時として「お金=紙幣や硬貨」という物質的な概念に囚われがちです。しかし、資本主義の高度な発達は、お金を物質から「情報」へと変化させました。

お金は「ありがとう」の数値化である

よく自己啓発やビジネスの場でも語られますが、お金とは「他者からの信用の総量」であり、「誰かに価値を提供した対価(ありがとう)」が数値化されたものです。

現金が見えないキャッシュレス社会では、この本質がより色濃く現れます。 銀行口座の残高は、単なる数字の羅列ではありません。それは社会に対する「信頼残高」です。 仕事をしっかりこなし、誰かの役に立ち、約束を守って得た対価が積み上がっている。だからこそ、その数字を移動させるだけで、他者の労働力(商品やサービス)と交換ができるのです。

「信用」があれば、お金は後からついてくる

子供たちに伝えたいのは、「お金を稼ぐこと」よりも「信用を貯めること」の重要性です。 例えば、財布を忘れて友達と食事に行ったとします。「ごめん、明日絶対に返すから貸して」と言って、快く貸してもらえる子は「信用持ち」です。逆に、いつも嘘をついたり、借りたものを返さなかったりする子は、100円すら貸してもらえません。

この時、貸してもらえる子にとっての「信用」は、現金の代わりを果たしています。 社会に出れば、この規模が大きくなります。家を買うための住宅ローンも、事業を始めるための融資も、すべては「この人なら貸しても大丈夫(返してくれる)」という信用力によって決定されます。

現金は使えば減りますが、信用は約束を守り続ける限り、減るどころか増えていきます。そして、いざという時に自分を助けてくれるのは、手元の現金以上に、積み上げた「信用」なのです。


第3章:【実践ワーク】親子で試す「約束やぶりシミュレーション」

概念的な話が続きましたが、子供は理屈だけでは理解しにくいものです。特に「信用を失う怖さ」は、実際に体験してみないと身に沁みません。 そこで提案したいのが、家庭内でできる**「約束やぶりシミュレーション」**です。

これは、あえて「約束を破る(支払いを滞納する)」体験をさせ、その結果どうなるかを疑似体験させるワークショップです。少し心が痛むかもしれませんが、社会に出てから取り返しのつかない失敗をするより、親の目の届く範囲で「小さな痛み」を経験させておくことは、最大の親心と言えるでしょう。

ステップ1:家庭内通貨の発行

まず、家庭内で使える「チケット」や「ポイント」を用意します。手書きの紙で構いません。 これを「お小遣い」として子供に渡します。 そして、家庭内のお店(おやつ置き場など)を作り、「チケット1枚でお菓子1つ」といったルールを決めます。

ここで重要なルールを一つ追加します。 「チケットが足りなくても、お母さんに『ツケて』と言えば、商品を持って行っていい。ただし、必ず週末のお小遣い支給日に返すこと」 これが、擬似的なクレジットカード(信用取引)の始まりです。

ステップ2:欲望の解放と「借金」

子供は「ツケ」ができるとわかると、手持ち以上のものを欲しがります。「来週の分から返せばいいや」と軽く考え、お菓子やゲーム時間を前借りするでしょう。 最初のうちは、親もニコニコして「いいよ、信用してるからね」と貸してあげてください。

ステップ3:運命の「不履行」

あるタイミングで、子供が返済できない量まで借りてしまうか、返すのを忘れる瞬間が来ます。あるいは、親があえて「返済期限」を厳密に設定し、少しでも遅れたらアウトという状況を作っても良いでしょう。 ここで、シミュレーションのクライマックスです。

子供が「ごめん、返すの忘れてた」「来週まとめて返すから」と言ってきた時、親は態度を一変させてください。

ステップ4:信用の崩壊(ブラックリスト入り)体験

今まで優しかった親が、冷徹な「金融機関」の顔になります。 「約束でしたよね? 期日を守れませんでしたね」 そして、次の宣告をします。 「あなたの信用はゼロになりました。今後、一切の『ツケ』は認めません。現金(チケット)がある時しか、商品は渡しません」

子供が泣きついてきても、「これはルールの問題です。信用はお金よりも重いのです」と突っぱねてください。 さらに、もし兄弟がいれば「お兄ちゃんは信用がないから貸せないけど、妹ちゃんは信用があるから貸してあげる」という差をつけるのも効果的です(残酷ですが、これが社会の現実です)。

ステップ5:振り返りと「信用の回復」

子供が不便さと悔しさを十分に味わったら、話し合いの場を設けます。 「どうして貸してもらえなくなったと思う?」 「一度失った信用を取り戻すのは、どれくらい大変だった?」

そして、最後にこう伝えます。 「これが、大人になってからやると『ブラックリスト』と言って、何年もクレジットカードが作れなくなったり、家が借りられなくなったりするんだよ。パパとママとの遊びでよかったね。でも、社会に出たらもっと厳しいんだよ」

この原体験があれば、将来子供がクレジットカードを持った時、そのカードの重みを肌感覚で理解できるはずです。


第4章:大人になっても響く「見えないお金」のリスク

この「信用のしつけ」は、早ければ早いほど良いですが、中学生・高校生になってからでも遅くはありません。なぜなら、18歳で成人となれば、親の同意なしにクレジットカード契約やローン契約が可能になるからです。

リボ払いという「甘い罠」

金融知識がない若者が最も陥りやすいのが「リボ払い」です。 「毎月5,000円の支払いでOK!」という謳い文句は、一見親切に見えます。しかし、リテラシーのある私たちから見れば、それは莫大な金利手数料を払い続ける「終わりのない借金」に他なりません。 「支払いを先延ばしにする」という行為には、必ずコスト(金利)がかかります。そのコストの正体もまた、カード会社が負っている「回収できないかもしれないリスク」への対価なのです。

若いうちの失敗は親の責任?

子供が未成年のうちは、親権者が契約を取り消すことができる場合もあります。しかし、成人してからの失敗は、すべて本人の責任となり、その記録(信用情報)は5年、10年と残ります。 就職、結婚、住宅購入。人生の節目で「過去の未払い」が足枷となり、夢を諦めざるを得なくなる。そんな悲劇を避けるために、私たち親ができることは何でしょうか。

それは、「お金を与えること」ではなく、「お金との付き合い方(リテラシー)」という武器を授けることです。 魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える。さらには、釣った魚をどう管理し、腐らせずに増やすかを教えること。これこそが、現代における最高の「教育投資」ではないでしょうか。


第5章:家庭だけで教えるのが難しいと感じたら

ここまで、家庭での教育やシミュレーションについてお話ししてきましたが、正直なところ「親が教えるのには限界がある」と感じる方も多いはずです。

お金の話は、親子だからこそ感情的になりがちです。「無駄遣いばかりして!」と叱ってしまい、子供がお金に対してネガティブなイメージを持ってしまうこともあります。また、私たち親世代自身が、学校で体系的な金融教育を受けてこなかったため、自信を持って教えられないというジレンマもあるでしょう。

実際、欧米では金融教育が義務教育に含まれている国も多いですが、日本ではようやく始まったばかり。家庭教育の格差が、そのまま将来の経済格差に直結しかねない状況です。

「プロの力」を借りるという選択肢

もし、あなたが「子供に正しい金銭感覚を身につけさせたいけれど、自分教える自信がない」「喧嘩にならずに楽しく学ばせたい」と考えているなら、外部のプロフェッショナルな力を借りるのが最も賢い選択です。

ピアノを習わせるのにピアノ教室に通わせるように、水泳を教えるのにスイミングスクールに通わせるように、お金のことも「お金の先生」に任せてみてはいかがでしょうか。

今、全国で注目を集めているのが、子供向けのマネースクールです。 机に座って難しい計算をするのではありません。「おみせやさんごっこ」などの体験型ワークを通じて、働くことの楽しさや、お金の役割、そして「ありがとう(信用)」の仕組みを、遊びながら体感できるカリキュラムが組まれています。

第三者である「先生」から教わることで、子供は素直に話を聞きますし、親もその様子を客観的に見ることで、「あ、うちの子はこういう時にお金を使うタイプなんだ」という発見があります。

もし、ご家庭で「約束やぶりシミュレーション」をするのが難しい、あるいはもっとポジティブな形でお金の教育をスタートさせたいとお考えなら、まずは無料の体験会などに参加してみることを強くお勧めします。

子供が「お金って面白い!」「約束を守るってカッコいい!」と目を輝かせる瞬間は、親にとっても大きな財産になるはずです。

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2. 免責事項

【免責事項】 本記事は、金銭教育および一般的な家計管理に関する情報提供を目的としており、特定の金融商品の勧誘や、将来の運用成果を保証するものではありません。金融商品の契約や投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行っていただきますようお願いいたします。また、紹介しているセミナーやサービスの内容は執筆時点のものであり、変更される可能性があります。詳細は各公式サイトにてご確認ください。

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