第4回:【収益性分析】ROEとROAを使いこなし、「稼ぐ効率」の本当の意味を知る:アステラス製薬

はじめに:100万円で10万円稼ぐ人と、1000万円で10万円稼ぐ人、どちらが「凄い」ですか?

こんにちは、あなたの投資の学びを支えるパートナー、makoです。

想像してみてください。ここに2人の個人事業主がいます。

Aさんは、自分のお金100万円を使って、1年で10万円の利益を出しました。

Bさんは、自分のお金1000万円を使って、同じく1年で10万円の利益を出しました。

利益の「額」だけを見れば、どちらも10万円で同じです。でも、投資家としてどちらを「応援したい(株を買いたい)」と思うでしょうか? おそらく、ほとんどの方がAさんを選ぶはずです。なぜなら、Aさんの方が少ない資金で効率よく稼いでいるからです。

株式投資において、企業の「利益の額」だけを見るのは、このAさんとBさんの違いを見逃しているのと同じです。多くの初心者が「売上が増えた!」「利益が出た!」と喜んでいる間に、プロの投資家は「で、それはいくらの元手を使って出した利益なの?」という「効率」を厳しくチェックしています。

この「効率」を見誤ると、実は中身がスカスカな「おデブな企業」に投資してしまい、資産がなかなか増えないという事態に陥りかねません。

この記事を読み終える頃、あなたはROEとROAという2つの強力なレンズを通して、アステラス製薬が「筋肉質なエリート」なのか、それとも「資金を浪費する巨人」なのかを、自分自身で判定できるようになります。数字の向こう側にある「経営のセンス」を読み解いていきましょう。


理論解説:ROEとROA、そして「デュポン分析」の魔法

「効率性」を測る上で、避けて通れないのがROE(自己資本利益率)とROA(総資産利益率)です。これを身近な例で解説します。

  • ROE(自己資本利益率):「自分のお金(純資産)」を使って、どれだけ利益を出したか。例:自分のお金(頭金)で始めたカフェが、どれだけ利益を生んだか。
  • ROA(総資産利益率):「会社にある全てのお金(自分のお金 + 借金)」を使って、どれだけ利益を出したか。例:頭金だけでなく、銀行からのローンも使って建てた店舗全体で、どれだけ利益を生んだか。

投資の神様と「ROE」の権威

投資の神様ウォーレン・バフェットは、投資判断において最も重視する指標の一つとしてROEを挙げています。彼は「ROEが継続的に15%を超える企業は、素晴らしい競争優位性を持っている」という趣旨の発言を繰り返しています。

また、プロの世界ではROEを3つの要素に分解する「デュポン分析」という手法がよく使われます。

  1. 売上高利益率(どれだけ付加価値をつけて高く売ったか)
  2. 総資産回転率(どれだけ資産をテキパキと使い回したか)
  3. 財務レバレッジ(どれだけ借金をうまく活用して自分のお金のパワーを増幅させたか)

ROEが高いといっても、実は借金まみれで無理をさせているだけ(財務レバレッジが高いだけ)というケースもあります。この3つの要素を分解して見ることで、その企業の「稼ぎ方のクセ」が浮き彫りになるのです。情報の希少性は、単にROEの数値を知ることではなく、その「中身」が健全かどうかを見抜く視点にこそ宿ります。


実践分析:アステラス製薬の「稼ぐ効率」を解剖する

それでは、アステラス製薬株式会社の2026年3月期 第2四半期決算短信の数値を使って、実際の収益性を計算し、物語化していきましょう。

※ROEとROAは通常、通期(1年分)の利益で計算しますが、今回は中間期の利益を「2倍」にして年換算した概算値、および会社側が公表している通期予想を用いて、今のアステラスの「勢い」を可視化します。

1. 収益性指標の算出データ(2026年3月期 会社予想・中間実績)

指標数値(2026年3月期 通期予想)備考
当期利益(親会社帰属)180,000 百万円前年比 +254.7% の大幅増益予想
自己資本(親会社所有者帰属持分)1,612,427 百万円2Q末時点の純資産
総資産3,450,291 百万円2Q末時点の総資産
ROE(自己資本利益率)約 11.2 %(180,000 ÷ 1,612,427 × 100)
ROA(総資産利益率)約 5.2 %(180,000 ÷ 3,450,291 × 100)

(※前年度(2025年3月期)のROEは、減損損失の影響で約3.3%まで落ち込んでいました。)

2. 数字から読み解く「効率性のドラマ」

この数字をどう見ればいいのでしょうか? ここに、アステラス製薬が今まさに成し遂げようとしている「大逆転のストーリー」が隠されています。

① ROE 11.2%: 崖っぷちからの「二桁」復帰

前年度、アステラスは主力製品の特許切れや巨額買収に伴う「減損損失(負の遺産整理)」により、利益が大きく沈み込み、ROEも3%台という、グローバル企業としては非常に寂しい水準にありました。

しかし今期、新薬(PADCEV等)の快進撃により利益が急回復し、ROEは11.2%まで跳ね上がる見込みです。これは、かつて「おデブ」になりかけていた巨人が、一気に脂肪を燃焼させ、再び筋肉質な身体(二桁ROE)を取り戻しつつあることを示しています。

② 売上高利益率の劇的な改善

デュポン分析の第一要素である「利益率」を見てみましょう。

今期中間期の売上総利益率は約80.5%(!)。そして営業利益率も19.4%まで回復しています。

これは、100円の薬を売るのに、原価はわずか20円弱しかかかっていないということです。この「圧倒的な付加価値」こそが、アステラスの効率性を支える真の源泉です。彼らは、単なるモノ売りではなく、患者さんの人生を変える「サイエンスの価値」を売っているのです。

③ 総資産回転率の課題: 1.4兆円の「重り」をどう回すか

一方で、ROAが5.2%に留まっている点には注意が必要です。

これは、第2回で解説した「のれん・無形資産」という巨大な資産(約1.4兆円)を抱えているため、分母が非常に大きくなっているからです。

今の彼らは、「超豪華な最新鋭のキッチン(巨大な買収資産)」を手に入れたものの、まだそのキッチンを24時間フル稼働させるまでには至っていないシェフのようなものです。今後、PADCEVなどの新製品がさらに世界中で売れまくることで、この巨大な資産がどんどん回転し、ROAが押し上げられていく。これこそが、私たちが期待すべき「成長シナリオ」です。


本質的な視点:医薬品業界における「ROE」の罠と真実

ここで、少しハイレベルな話をしましょう。

「ROEを上げたければ、借金を増やして自社株買いをすればいい」というテクニックが存在します。財務レバレッジを上げることで、見かけ上のROEをドーピングすることができるのです。

しかし、アステラス製薬のROE向上の背景は、そうした財務テクニックではありません。彼らは、純粋に「本業の利益率」を上げることでROEを押し上げようとしています。

アステラスの今期のコア営業利益の伸び(+32.4%)は、為替の影響を除いても極めて力強いものです。研究開発費という「未来へのコスト」を売上高の14%以上も投じながら、それでも二桁のROEを確保しようとする姿勢は、長期投資家にとって非常に信頼できる「質の高い効率性」と言えます。


ストーリーテリング:効率の向こう側にある「約束」

アステラスの収益性分析をしていると、一人のトップアスリートの姿が思い浮かびます。

大きな怪我(主力薬の特許切れ)を負い、一時はランキングを大きく下げた(ROE 3%)。しかし、周囲の不安をよそに、彼は影で血の滲むようなリハビリ(研究開発とM&A)を続けていました。

そして今、最新のフォーム(新戦略製品)を身にまとい、再び世界のトップ戦線に返り咲こうとしています。ROE 11.2%という数字は、単なる計算結果ではありません。それは「私たちは、再び世界で戦える効率を手に入れた」という、経営陣から株主への、力強い復活宣言なのです。


まとめ:あなたの「選球眼」をさらに鋭くするために

今回は、企業の「稼ぐ効率」を映し出すROEとROAを通じて、アステラス製薬の筋肉質な復活劇を解剖しました。

今回のポイントを3つにまとめます。

  1. ROEが3%台から11.2%(予想)へと急回復。不採算な時期を抜け、効率的な稼ぎモードに入った。
  2. 売上総利益率80%超という圧倒的な付加価値が、収益性の土台となっている。
  3. 巨額資産(のれん)を抱えるためROAはまだ改善の余地がある。今後の「資産の回転」が株価上昇のカギ。

【今すぐできるベビーステップ】

証券会社のアプリや株探などのサイトで、あなたの持っている銘柄の「ROE」を調べてみましょう。その数字が前年より「上がっているか、下がっているか」を確認するだけで、その企業の経営効率が改善しているのか、それとも悪化しているのかが、一瞬で分かります。

さて、次回は第5回:【安全性分析】自己資本比率と流動比率で、企業の「守りの硬さ」を徹底解剖をお届けします。

効率よく稼ぐのも大切ですが、不況の波が来た時に、その企業は耐えられるのか? 倒産という最悪のシナリオを回避するための「究極の守備力」を判定します。どうぞお楽しみに!


makoの投資判断評価:アステラス製薬(4503)

総合評価: 8 / 10

理由:

ROEの二桁復帰見込みは、投資家にとって非常に強い買い材料です。巨額買収によって膨らんだ資産(分母)を、本業の圧倒的な利益率(分子)で克服しつつある点を高く評価します。唯一、ROAの低さが「重い資産」を象徴していますが、これは新製品の成長とともに解決される「成長痛」であると判断しました。

(出典:アステラス製薬株式会社 2026年3月期 第2四半期 決算短信)


免責事項:

本記事は、公開された決算資料に基づき、収益性分析の教育を目的として作成されたものであり、特定の株式の売買を推奨するものではありません。ROEやROAの予想数値は、今後の業績変動や為替、新薬承認の可否等により大きく変化する可能性があります。投資に関する最終決定は、読者ご自身の責任と判断において行ってください。

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