第1回:【損益計算書】企業の「稼ぐ力」を知る:アステラス製薬

はじめに:なぜ「数字の裏側」を知らないと損をするのか?

投資の世界へようこそ。

あなたは、「株価が下がっているから、今は買い時だ」といった直感だけで大切な資産を投じてしまったことはありませんか? もしそうなら、それは目隠しをして高速道路を走るような、非常にリスクの高い行為かもしれません。

投資における最大の恐怖は、自分のお金が「なぜ増えたのか」「なぜ減ったのか」が分からないことです。この「不透明さ」こそが、多くの投資家を不安にさせ、最終的に市場からの退場へと追い込む原因となります。逆に言えば、企業の「稼ぐ力」を正確に把握する術を身につければ、一時的な株価の乱高下に惑わされることはなくなります。

「損益計算書(P/L)」を読むことは、企業の健康診断書を読み解く第一歩です。ここには、その企業が1年間にどれだけ汗をかき、どれだけの利益を残したかという「努力の結晶」が刻まれています。

この記事を読み終える頃には、あなたは単なる「数字の羅列」を、企業の成長というドラマチックな物語として読み解けるようになっているはずです。さあ、一緒にアステラス製薬という企業の「真の稼ぐ力」を解剖していきましょう。


理論解説:損益計算書は「1年間の成績表」

損益計算書(P/L)を理解するために、身近な「カフェの経営」を想像してみてください。

  • 売上収益:お客様がコーヒー代として支払った総額。
  • 売上原価:コーヒー豆やミルクの仕入れ代。
  • 売上総利益(粗利):売上から原価を引いた、商品そのものの「付加価値」。
  • 販売費及び一般管理費(販管費):お店の家賃、アルバイトの給料、広告宣伝費。
  • 営業利益:本業でいくら儲かったかを示す、最も重要な指標。

「投資の神様」として知られるウォーレン・バフェットは、かつて「永続的競争優位性を持つ企業は、売上総利益率が高い」という趣旨の発言をしています。つまり、他社には真似できない独自の価値を提供できている企業ほど、手元に残る利益が厚くなるのです。

特に医薬品業界のような、莫大な研究開発費を投じて新しい価値を生み出すビジネスでは、この「粗利」と、未来への投資である「研究開発費」のバランスを読み解くことが、プロの投資家が最初に行うチェックポイントとなります。情報の希少性は、単に数字を知ることではなく、その数字が「未来の利益」にどう繋がっているかを見抜く視点にこそ宿るのです。


実践分析:アステラス製薬の「稼ぐ力」を解剖する

それでは、実際にアステラス製薬株式会社の2026年3月期 第2四半期決算短信(2025年4月1日~2025年9月30日)を詳しく見ていきましょう。

同社の経営成績は、まさに「古い稼ぎ頭から、新しい成長の柱へ」という、ダイナミックな変革の物語の真っ只中にあります。

1. 連結経営成績の概要(2026年3月期 第2四半期 累計)

まずは、主要な数値を表で整理してみましょう。

項目2025年3月期 中間期(前年)2026年3月期 中間期(当年)前年同期比(増減率)
売上収益935,395 百万円1,030,114 百万円+10.1%
営業利益93,711 百万円199,378 百万円+112.8%
税引前中間利益89,042 百万円194,606 百万円+118.6%
親会社の所有者に帰属する中間利益70,517 百万円153,678 百万円+117.9%
コア営業利益186,971 百万円247,562 百万円+32.4%

(※コア営業利益とは、一時的な要因を除外した、アステラス製薬が本来持っている「持続的な稼ぐ力」を示す指標です。)

2. 数字から読み解く「成長のドラマ」

この表を見て、あなたはどう感じましたか? 「売上が10%増えたのに、営業利益が2倍以上(+112.8%)になっている!」という点に驚かれたのではないでしょうか。これこそが、今のアステラス製薬を分析する上で最も面白いポイントです。

① 売上の質が変わった:

アステラス製薬は今、主力製品だった「イクスタンジ(前立腺がん治療剤)」の特許切れ(パテントクリフ)という大きな壁に立ち向かっています。しかし、最新の決算では、その後継となる「PADCEV(尿路上皮がん治療剤)」や「VEOZAH(更年期随伴症状治療剤)」、「IZERVAY(眼科疾患治療剤)」といった戦略製品が爆発的に成長しています。

特に、がん領域の「PADCEV」は前年同期比で約2.4倍もの売上を記録しました。これは、古いエンジンから最新の超高性能エンジンへと、走る速度を落とさずに積み替えることに成功しつつあることを意味します。

② 「稼ぐ効率」の劇的な改善:

営業利益が2倍以上に跳ね上がった理由は、単に売上が増えたからだけではありません。前年に計上していた無形資産の減損損失(ビジネスがうまくいかなかった際に見積もりを下げる処理)が大幅に減ったこと、そして「コア営業利益」で見ても32.4%増と、本業の収益性が着実に向上していることが要因です。

これは、家計で言えば「収入が増える一方で、無駄な出費を抑え、さらに将来の昇給に向けた資格取得(研究開発)を効率よく進めている」状態と言えます。

③ 為替という追い風:

もちろん、円安の影響も無視できません。グローバルに展開するアステラス製薬にとって、円安は海外での稼ぎを日本円に換算した際にかさ上げしてくれる効果があります。しかし、それを差し引いても、製品そのものの力が強まっていることは明らかです。


本質的な視点:医薬品ビジネス特有の「コスト構造」

ここで少し専門的なお話をしましょう。製薬企業のP/Lを見る際、プロの投資家は「研究開発費率」を注視します。

アステラス製薬の今期中間期における研究開発費は「145,553 百万円」です。売上収益に対する割合は約14.1%に達します。

普通の企業からすれば「売上の14%も研究開発に使うなんて、お金を使いすぎでは?」と思うかもしれません。しかし、これは「未来の宝の地図」を買うための投資です。今日売っている薬はいずれ特許が切れます。だからこそ、常に新しい薬を作り続けなければなりません。

アステラス製薬は、特定の疾患領域に深く潜り込む「Focus Areaアプローチ」を採用しています。これは、広く浅く投資するのではなく、勝てる見込みの高い領域(がんや眼科、遺伝子治療など)に資金を集中させる戦略です。この戦略が功を奏し、次世代のスター候補たちが着実に育っていることが、今回の決算数値に表れているのです。


まとめ:あなたの「投資の目」を養うために

いかがでしたか? 損益計算書の数字が、単なる「計算結果」ではなく、企業の生き残りをかけた戦略の跡に見えてきたのではないでしょうか。

今回のポイントを3つにまとめます。

  1. 営業利益の激増は、新製品へのバトンタッチが順調な証拠
  2. 一時的な損失が減り、本業の「稼ぐ効率(コア営業利益)」が32.4%も向上している
  3. 高い研究開発費は、将来の利益を生むための「必要不可欠なコスト」である

【今すぐできるベビーステップ】

まずは、あなたの持っている銘柄や気になる企業の「売上収益」と「営業利益」が、前年と比べて「増えているか・減っているか」をチェックしてみましょう。増減の理由を考えるだけで、あなたの投資判断の質は劇的に向上します。

さて、次回は第2回:【貸借対照表】企業の「体力」と「倒産リスク」を見抜くをお届けします。

いくら利益が出ていても、貯金(資産)が底をつき、借金(負債)に押しつぶされては意味がありません。アステラス製薬が持つ「守りの硬さ」は本物なのか? 衝撃の真実を明らかにします。どうぞお楽しみに!


makoの投資判断評価:アステラス製薬(4503)

総合評価: 8 / 10

理由:

主力の特許切れという最大の懸念材料に対し、新戦略製品(PADCEV等)の立ち上がりが想定以上に強く、利益構造が劇的に改善している点を高く評価します。為替の影響を除いた「実力値」でも成長軌道に乗っており、将来の「稼ぐ力」は非常に強固であると判断しました。

(出典:アステラス製薬株式会社 2026年3月期 第2四半期 決算短信)


免責事項:

本記事は、提供された決算資料に基づき、情報提供および教育を目的として作成されたものであり、特定の有価証券の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、読者ご自身の判断と責任において行われるようお願いいたします。本記事の内容によるいかなる損失についても、作成者は責任を負いかねます。また、製薬業界には臨床試験の成否や規制当局の承認といった特有のリスクが存在することを十分にご理解ください。

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