はじめに:疑問を持つことが「投資家へのパスポート」です
改めまして。
「円安の影響は?」「利益率は上がったの?」「特許切れって怖くない?」……こうした疑問を抱くのは、あなたが表面的な数字だけでなく、企業の「持続可能性」を真剣に考え始めている証拠です。
多くの個人投資家が「なんとなく上がっているから」という理由で株を買う中、こうした構造的な要因を理解しようとする姿勢は、将来的に大きな損失を避け、確かな利益を積み上げるための最大の武器になります。
投資の神様ウォーレン・バフェットは**「自分の理解できないものには投資しない」**という鉄則を持っています。今回の深掘り解説で、アステラス製薬を「理解できる対象」へと昇華させていきましょう。
1. 円安の影響はどれだけあるのか?:追い風の「強さ」を測る
まず、為替の影響についてです。結論から申し上げますと、アステラス製薬にとって**円安は非常に強力な「追い風」**となっています。
為替影響の「見える化」
アステラス製薬のようなグローバル企業は、アメリカではドルで、ヨーロッパではユーロで薬を売っています。日本円が安くなると、海外で稼いだ外貨を日本円に直したときの金額が膨らみます。
決算短信の補足資料(2026年3月期 第2四半期)によると、前年同期と比べた為替レートの変化は以下の通りです。
| 通貨 | 2025年3月期 中間期(実績) | 2026年3月期 中間期(実績) | 変動 |
| 米ドル (USD) | 149 円 | 153 円 | +4 円 |
| ユーロ (EUR) | 162 円 | 167 円 | +5 円 |
この数円の差が、数千億円単位の売上収益には巨大なインパクトを与えます。
具体的には、今回の売上収益の増加額(約947億円)のうち、為替による押し上げ効果だけで約336億円含まれています。
「風」が止まった時を考えるのがプロ
「なんだ、円安のおかげか」とガッカリする必要はありません。重要なのは、**「為替を除いても成長しているか?」**という点です。
アステラスの今期の売上成長率10.1%のうち、為替影響を除いた「実質成長率」は約6.5%です。為替の追い風を差し引いても、しっかりと本業で成長していることが分かります。
makoの比喩:
円安は「追い風」のようなものです。追い風が吹けば自転車は速く進みますが、重要なのは「風が止まっても自力でペダルを漕ぐ力(製品力)」があるかどうかです。アステラスは今、自力のペダルもしっかり漕げている状態ですね。
2. 利益率が高くなった理由:効率的な「稼ぎ」の正体
次に、利益率についてです。ご指摘の通り、利益率は劇的に向上しています。
利益率の比較(営業利益率)
- 前年同期(2025年3月期 中間期): 約 10.0%
- 今期(2026年3月期 中間期): 約 19.4%
なんと、1年で利益率がほぼ2倍になっています。なぜこれほど良くなったのでしょうか? 理由は主に2つあります。
① 「高く売れる新薬」の比率が上がった
古い薬から、利益率の高い「新薬(PADCEVなど)」に売上の主役が入れ替わっています。新薬は開発にコストがかかりますが、一度世に出れば、製造コストに対して非常に高い価格で販売できるため、売れば売るほど利益率が向上します。
② 「負の遺産」の整理が終わった
昨年は、買収した企業の価値を見直したり、開発がうまくいかなかったプロジェクトの「減損損失(いわゆる特別損失のようなもの)」を営業利益の段階で計上していました。今期はそのような「お掃除」が少なかったため、本来の稼ぐ力がストレートに利益として表れるようになりました。
社会的証明:
機関投資家(プロの投資家)は、単なる利益の額ではなく「営業利益率」を重視します。アステラスが再び20%近い利益率を目指せる体制に戻ってきたことは、株式市場で非常にポジティブに捉えられています。
3. 特許切れ(パテントクリフ)の周期と対策:崖を飛び越える戦略
最後に、製薬業界最大の宿命である「特許切れ」について解説します。
特許切れは何年ごとに来るのか?
薬の特許は通常、出願から20年〜25年です。しかし、実際に病院で使われるようになる(承認される)までの開発に10年以上かかることも多いため、実際に独占して稼げる期間は10年前後になるのが一般的です。
「何年ごと」という決まった周期はありませんが、**「主力製品の特許が切れるタイミング」**こそが、その企業の株価の最大の分岐点となります。
アステラスの最大の試練:2027年の崖
アステラスにとっての最大の課題は、現在の大黒柱である前立腺がん治療剤「イクスタンジ」の特許が2027年頃から順次切れていくことです。これを業界では「パテントクリフ(特許の崖)」と呼びます。
アステラスの対策:3つの「崖飛び越え」戦略
崖から落ちないために、アステラスは以下の対策を打っています。
- 「Focus Area アプローチ」: 「なんでも屋」になるのをやめ、自分たちが世界一になれる特定の領域(がん、眼科、遺伝子治療など)に研究開発費を全集中させています。
- ADC(抗体薬物複合体)技術: 「PADCEV」に代表される、がん細胞だけを狙い撃ちする次世代技術に強みを持っています。これはコピーが非常に難しく、特許が切れた後も簡単には後発品(ジェネリック)に市場を奪われない「参入障壁」になります。
- 積極的な買収(M&A): 自社だけで開発するのではなく、有望な「薬の種」を持つ海外ベンチャーを数千億円単位で買収しています。昨年のアイベリック・バイオ社の買収(眼科領域)などがその代表例です。
まとめ:数字の向こう側にある「企業の意志」
いかがでしたか? 3つの質問への答えをまとめると、以下のようになります。
- 円安の影響: 確かに大きいが、それを除いても実力で6.5%成長している。
- 利益率: 新薬への交代と損失の減少により、10%から19%へと劇的に改善した。
- 特許切れ: 2027年の巨大な崖に向け、ADC技術や買収で「新しい柱」を急ピッチで育てている。
【アクションプラン:ベビーステップ】
アステラス製薬のホームページにある「主要製品売上高」のグラフを一度見てみましょう。イクスタンジという巨大な柱の隣で、PADCEVという新しい柱がどれくらいの勢いで伸びているかを確認するだけで、あなたの投資判断はより「確信」に近いものになるはずです。
次回は第2回:【貸借対照表】企業の「体力」と「倒産リスク」を見抜くです。
これだけ攻めの姿勢を見せているアステラス製薬ですが、その「お財布事情」は大丈夫なのでしょうか? 巨額買収を支える財務の裏側を、初心者の方にも分かりやすくお伝えします。
次回の更新を楽しみにしていてくださいね!
(出典:アステラス製薬株式会社 2026年3月期 第2四半期 決算短信・決算説明会資料)
免責事項:
本回答は情報の提供を目的としており、特定の銘柄の売買を勧誘するものではありません。為替レートの変動や新薬開発の成否には不確実性が伴います。投資にあたっては、必ず最新の公式資料を確認し、ご自身の判断で行ってください。