こんにちは、makoです。
これまで私たちは、富士通の財務データやビジネスモデルを徹底的に分析してきました。今の富士通は、資産売却で得た6,400億円の軍資金を抱え、利益率の高い「Uvance」という新エンジンを全開にして、先行する王者・日立製作所を猛追しています。
しかし、完璧に見える作戦にも必ず「穴」があります。 どれほど優れた設計図があっても、それを形にする「職人」がいなければ、あるいは途中で「嵐」に巻き込まれれば、船は目的地にたどり着けません。
投資において最も恐ろしいのは、「知らないリスク」に直面することです。逆に、あらかじめリスクを把握し、「この程度なら許容できる」と判断できていれば、一時的な株価の暴落にも動じることはありません。
今回は、富士通の経営陣が目指す「北極星(ビジョン)」と、その航路を阻むリアルな壁を解剖していきましょう。
1. 経営戦略:6,400億円を何に使うのか?
第3回で驚いた、あの巨額の現金。富士通はこの「最強の武器」をどこに投入しようとしているのでしょうか。経営計画から見える**「3つの投資先」**が、今後の株価4,253円の正当性を左右します。
① M&A(合併・買収):時間を金で買う
富士通が最も狙っているのは、海外の有力なITコンサルティング会社やAIベンチャーの買収です。 自社でゼロから人材を育てるよりも、既に顧客と技術を持っている会社を買い取ることで、「年26%成長」へのショートカットを狙っています。
② 研究開発(R&D):AIと量子コンピュータ
「富士通は単なるシステム屋ではない」ことを証明するために、彼らはAI(誠 AIなど)や次世代の量子コンピュータへの投資を緩めません。これが、GoogleやMicrosoftといった世界の巨人たちと渡り合うための「唯一のチケット」だからです。
③ 人財への投資:サラリーマンからの脱却
「IT企業は人がすべて」です。富士通は今、年功序列の賃金体系を壊し、優秀なエンジニアに数千万円の報酬を出す仕組みへ作り替えています。この**「筋肉質な組織への改造」**が、高収益体質を作る真の土台となります。
2. 徹底解剖:富士通を襲う「3つの爆弾(リスク)」
さて、ここからが本題です。富士通が公式に、あるいは非公式に恐れているリスクを直視しましょう。
爆弾1:深刻な「高度IT人材」の不足
どんなにUvanceの注文が入っても、それを作るエンジニアがいなければ売上になりません。
- 現状: 世界中でDX人材の奪い合いが起きています。
- 投資家の懸念: もし人材確保に失敗すれば、人件費が高騰して利益を圧迫する(利益率7.7%が維持できない)、あるいは案件を受けられず成長が止まるリスクがあります。
爆弾2:地政学リスクとサプライチェーン
富士通はグローバル企業です。
- 現状: 米中対立やロシア・ウクライナ情勢など、世界は不安定です。
- 投資家の懸念: 特定の地域でのビジネス停止や、サーバー製造に必要な部品の調達困難が起きれば、今回のような「V字回復」のシナリオは一瞬で崩れ去ります。特に「経済安全保障」の観点での規制は、富士通のような通信インフラを担う企業には直撃します。
爆弾3:大規模プロジェクトの「炎上」
IT業界で最も恐ろしいのが、受注した大型システムの不具合(バグ)です。
- 現状: 過去、富士通もイギリスの郵便局システムや証券取引所のシステムで大きなトラブルを経験しています。
- 投資家の懸念: 一つの大規模プロジェクトが「炎上」すれば、数十億、時には数百億円単位の特別損失が発生します。これは、私たちが期待している「配当金」や「自社株買い」の原資を吹き飛ばす威力を持っています。
3. まとめ:リスクをどう捉えるべきか
富士通への投資は、以下の**「天秤」**をどう判断するかにかかっています。
- 左の皿(期待): Uvanceの成功、6,400億円の現金による大型買収、日立を追う爆発的な利益成長(+83.6%)。
- 右の皿(懸念): 人材不足によるコスト増、地政学による供給網断絶、大規模システム障害のリスク。
現在の株価4,253円は、市場が**「左の皿(期待)」の方が重い**と判断している結果です。しかし、右の皿にあるリスクが一つでも現実化すれば、天秤は一気に傾きます。
4. あなたが明日から見るべきポイント
今回は「経営戦略とリスク」を通して、富士通の光と影を分析しました。
- 攻めの戦略: 6,400億円の現金は、主にM&AとAI投資、人材確保に使われる。
- 最大の死角: 「IT人材の確保」と「不採算プロジェクトの発生」が、成長率を鈍化させる最大の懸念。
- 地政学の影響: 通信インフラを担うため、国際情勢の変化には他社以上に敏感である必要がある。
あなたへのアクションプラン(ベビーステップ)
この記事を読み終えたら、以下のことを1つだけ実行してください。
- ニュースで「IT人材不足」や「システム障害」という言葉を見かけたら、それが「富士通」に関連していないか、一度だけ意識してチェックしてみる。
これだけで、あなたのアンテナは「ただのニュース」を「投資の判断材料」に変えることができます。
次回予告:【最終回】富士通の「真の適正価格」を算出。あなたは買うか、見送るか。
全10回にわたる大解剖も、いよいよ次回がフィナーレです。 これまでの全データを統合し、makoが導き出した**富士通の「真の適正株価」**を発表します。 4,253円の今、あなたは「買いボタン」を押すべきなのか。それとも待つべきなのか。 その最終結論をお伝えします。お楽しみに!
makoの投資判断:8/10点
【評価理由】 経営陣の描く戦略(選択と集中)は極めて明快であり、実行スピードも上がっています。しかし、今回挙げた「人材確保」と「プロジェクト管理」というIT業界特有のリスクは常に付きまといます。特に大型買収(M&A)は失敗するリスクも高いため、慎重な見極めが必要です。戦略の質は高いものの、不確実性を考慮して8点を維持します。
免責事項 本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を勧誘するものではありません。分析は2025年12月時点の公開情報に基づいたAIによる解釈であり、将来の成果を保証するものではありません。投資は自己責任でお願いいたします。 (出典:富士通株式会社 2026年3月期 第2四半期決算短信)