はじめに:40代、私たちの「信用」が試される時
「まさか、自分が住宅ローンの審査に落ちるなんて……」
そんな言葉を残して、肩を落として帰っていく知人を私は何人も見てきました。彼らは決して不真面目なわけではありません。一部上場企業に勤め、年収も人並み以上、頭金だって十分に用意していた。それでも、銀行の答えは「NO」だったのです。
最近、私たちの生活はキャッシュレス化が加速し、財布を出さずに決済を終えることが当たり前になりました。非常に便利になった反面、実は「個人の信用」が、かつてないほどデジタルに、そしてシビアに管理されていることに気づいている人は多くありません。
特に注意が必要なのが、私たちが毎日手にしている「スマートフォン」です。実は、スマホ代の支払いをたった数日うっかり忘れたことが、数年後の「理想のマイホーム」という夢を打ち砕くトリガーになっているとしたら……。
今回は、知っているようで知らない「信用情報(クレジットヒストリー)」の正体と、住宅ローン審査という大きな壁を乗り越えるための具体的な戦略について、じっくりとお話ししていきます。
住宅ローン審査の「まさか」は、スマホから始まる
多くの人が誤解していることがあります。それは「スマホ代は通信費だから、多少遅れても止められるだけで、借金には関係ない」という思い込みです。
ここに大きな落とし穴があります。
スマホ本体の「分割払い」は立派なローン契約
現在のスマートフォンは10万円を超えることも珍しくありません。そのため、多くの人が「実質0円」や「24回払い」といった分割契約で購入していますよね。実はこの「分割払い」こそが、法律上はクレジットカードを作るのと同じ「割賦(かっぷ)販売契約」にあたります。
つまり、あなたが毎月支払っているのは「通信料」だけではなく、スマホ本体という商品の「ローンの返済」なのです。
たった数千円、数日の遅延が「異動」という致命傷に
銀行の住宅ローン審査担当者は、あなたの年収だけでなく、過去数年間の「支払いの履歴」をすべてチェックします。
もしあなたが、過去に「スマホ代の引き落とし日に口座にお金を入れ忘れていた」ことが数回あったとしましょう。たとえ後日すぐに振り込んだとしても、その事実はしっかりと記録に残ります。
さらに恐ろしいのは、3ヶ月以上の連続した滞納や、度重なる遅延が発生した場合です。信用情報には「異動(いどう)」という文字が刻まれます。これがいわゆる「ブラックリスト」に載った状態です。一度この記録がつくと、完済から5年間は住宅ローンの審査に通ることは極めて難しくなります。
信用情報機関「CIC」には何が書かれているのか?
日本の金融機関が審査の際、必ずといっていいほど照会するのが「CIC(割賦販売法・貸金業法指定信用情報機関)」です。ここには、あなたのこれまでのクレジット利用履歴がすべて蓄積されています。
審査官が見ているのは「金額」ではなく「記号」
CICから取り寄せた信用情報シートには、カレンダーのように毎月の支払い状況が記号で並んでいます。
- 「$」:請求通りに入金があった(優良)
- 「P」:請求額の一部が入金された(要注意)
- 「A」:お客様の都合で入金がなかった(危険)
- 「B」:お客様以外の理由で入金がなかった
住宅ローンの審査官は、ここに「A」や「P」が並んでいないかを血眼になって確認します。たとえ滞納したのが「たった3,000円」だったとしても、記録上は「3,000万円のローンを返せない人と同じ記号」がついてしまうのです。
完済から「5年間」は消えないという事実
「もう延滞分は全額払ったから大丈夫だろう」と考えるのは早計です。信用情報の記録は、完済した日から5年間は残り続けます。
40代という、人生で最も大きな買い物をする時期に、20代や30代の頃の「ちょっとした不注意」が足かせになる。これは非常に残酷な現実です。だからこそ、まずは自分の現状を正確に把握することが、家づくりの第一歩となります。
実録!住宅ローン審査に落ちる人の共通点
ここで、実際にあったケースを一つご紹介しましょう。
ある42歳の男性、Aさんの話です。彼は年収850万円。大手メーカーに勤務し、勤続年数も15年。誰が見ても「ローン審査なんて余裕で通る」物件でした。しかし、結果は非承認。
原因を調べてみると、2年前に「引っ越しをした際に、古い住所に届いていたクレジットカードの年会費(約2,000円)の督促状に気づかなかった」ことでした。Aさん自身に悪気は全くありませんでしたが、システム上は「長期延滞」として処理され、異動情報がついていたのです。
年収が高くても「信用」がなければ門前払い
銀行からすれば、「たかだか数千円の管理もできない人に、数千万円を35年も貸すことはできない」という理屈になります。住宅ローンは、銀行とあなたの「信頼関係」の上に成り立つ契約だからです。
最近では、PayPayやメルペイなどのあと払いサービスも普及していますが、これらも同様に信用情報に直結します。手軽さの裏にあるリスクを、私たちは常に意識しなければなりません。
【解決策】自分の信用情報を守り、ローンを勝ち取る3ステップ
では、これから住宅ローンを検討している私たちは、どう動けばいいのでしょうか? 絶望する必要はありません。正しい手順を踏めば、対策は可能です。
ステップ1:CIC(信用情報機関)で自分の現状を「開示」する
まずは、敵を知ることからです。CICはスマートフォンから簡単に「自分の信用情報の開示請求」ができます。手数料は1,000円程度。
ここで「A」や「P」がついていないか、あるいは身に覚えのない契約が残っていないかを確認してください。もし「異動」の文字があった場合は、残念ながら無理に審査に申し込むのは逆効果です。審査落ちの履歴(申し込みブラック)まで積み重なってしまうからです。
今のうちに、自分のステータスが「クリーン」であるかどうかを公式サイトで確認しておくことを強くお勧めします。
ステップ2:遅延がある場合の「正しい対処法」と「待機期間」
もし軽微な遅延が見つかった場合、まずは完済し、そこから「$(正常入金)」の履歴を積み上げていくしかありません。CICの履歴は直近24ヶ月分が表示されるため、2年間真面目に支払いを続ければ、古い「A」の記号を押し出して消すことができる場合もあります。
ただし、「異動」がある場合は、専門家のアドバイスが必要です。無理に動かず、まずは現状の改善に努めましょう。
ステップ3:審査に強い銀行を選び、プロに相談する
信用情報に少し不安がある、あるいは過去に一度審査に落ちてしまった……。そんな方でも、諦めるのはまだ早いです。
銀行によって審査基準は驚くほど異なります。メガバンクは厳しくても、ネット銀行や地方銀行、あるいは「フラット35」であれば、個別の事情を汲み取ってくれるケースがあります。
大切なのは、一人で悩んで複数の銀行に闇雲に申し込まないことです。一度審査に落ちると、その記録も6ヶ月間残ります。まずは、住宅ローンのプロに「自分の状況で通る可能性がある銀行はどこか」をシミュレーションしてもらうのが最も賢明なルートです。
現在は、複数の銀行の審査基準を熟知した専門家が、あなたに最適なローンを無料で提案してくれるサービスも充実しています。
まずは住宅ローンのプロに無料相談してみる。
まとめ:信用は「未来の自由」を買うためのチケット
「信用」という言葉は、少し重たい響きがありますね。しかし、それは私たちが将来、より良い生活を手に入れるための「パスポート」のようなものです。
スマホの分割払いや、毎月のカード決済。その一つひとつを大切に扱うことは、未来の自分へのプレゼントになります。もし今、少しでも不安があるのなら、まずは自分の立ち位置を確認してみてください。
理想の住まいを諦める必要はありません。正しい知識を持ち、プロの力を借りて戦略を立てれば、道は必ず開けます。
あなたが家族と一緒に、あの素敵なリビングで笑い合える日が来ることを、心から応援しています。
c) 免責事項
免責事項: 本記事の内容は、執筆時点の情報に基づいた一般的な解説です。個別の信用情報や住宅ローン審査の結果を保証するものではありません。実際の審査基準は金融機関ごとに異なり、また信用情報の開示・判断については必ず各指定信用情報機関(CIC、JICC、KSC等)の最新の規定を確認してください。投資や契約に関する最終的な決定は、ご自身の判断で行ってください。