【第5回】「明日、会社は潰れないか?」流動比率で富士通の資金繰りを完全スキャン

こんにちは、makoです。

前回は、富士通が叩き出した「ROE 26%」という驚異的な数字の裏側を暴きました。資産売却というドーピング(一時的要因)はありましたが、本業の稼ぐ効率(利益率)が確実に高まっていることに、ワクワクした方も多いのではないでしょうか。

しかし、投資家として浮かれてばかりはいられません。どんなに足が速く、稼ぐ才能がある選手でも、**「突然死」**してしまっては元も子もないからです。

想像してみてください。

あなたは1億円の価値がある豪邸(資産)を持っています。借金はありません。しかし、今あなたの財布には1,000円しか入っておらず、銀行口座も凍結されています。そんな状況で、明日までにクレジットカードの支払い10万円を済ませなければならないとしたら……。

資産はあるのに、支払いができない。これが、いわゆる**「黒字倒産」の入り口です。

企業も全く同じで、いくら立派なビルや工場、将来有望なシステムを持っていても、「今すぐ払わなければならないお金」**が足りなくなれば、その瞬間にゲームオーバーです。

第5回では、そんな企業の「即死リスク」を見抜くための最重要指標、**流動比率(りゅうどうひりつ)を徹底的に深掘りします。

さらに今回は、皆さんの多くが疑問に思う「富士通の在庫(棚卸資産)の中身」**についても、IT業界の裏側を交えて詳しく解説していきます。

この記事を読み終える頃には、あなたは企業の決算書から「この会社、来月もちゃんと存在しているかな?」という不安を、確かな安心感に変えることができるようになっているはずです。


1. 理論解説:流動比率は「短期的な家計の安全性」

まずは、プロの投資家や銀行員が「企業の呼吸」をチェックする際に必ず使う指標、流動比率の考え方を整理しましょう。

流動比率とは「1年以内の現金化能力」

流動比率は、貸借対照表(B/S)の「流動」という言葉がついた項目を使って計算します。

計算式:

流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100

この数値を日常生活に例えるなら、**「来年1年間で支払わなければならない全ての請求書(流動負債)に対して、手元にどれだけの現金や、すぐ現金に換えられる貯金(流動資産)があるか」**を測る指標です。

  • 流動資産(分子):現金、預金、売掛金(これから入ってくる代金)、在庫など。
  • 流動負債(分母):買掛金(これから払う代金)、1年以内に返さなければならない借金など。

社会的証明:なぜ銀行は「200%」を求めるのか?

かつて、多くのアナリストや会計士は「流動比率は200%以上あるのが理想」と教えてきました。これは、流動資産の半分がもしダメになっても、残りの半分で全ての負債を返せるという、二重の安全策を意味しているからです。

しかし、現代の効率的な経営が求められる時代では、**120%〜150%**あれば合格点、**200%**を超えれば「超・安泰」と言われるのが一般的です。もしこれが100%を切っている場合、それは「入ってくる予定のお金よりも、出ていくお金の方が多い」という、非常にスリリングな自転車操業状態であることを意味します。


2. 実践分析:富士通の資金繰りは「鉄壁」へと進化した

それでは、富士通の最新の数値(2025年9月末時点)をスキャンしてみましょう。

第2四半期決算短信の「要約中間連結財政状態計算書」から数字を抜き出し、半年前と比較しました。

【富士通:短期的な安全性の推移】

項目2025年3月期末(半年前)2025年9月中間期末(今回)増減
流動資産1兆7,035億円1兆9,081億円+2,046億円
流動負債1兆3,520億円1,021億円▲3,308億円
流動比率126.0%186.8%+60.8ポイント

(出典:富士通株式会社 2026年3月期 第2四半期決算短信)

驚異的な改善です。

たった半年間で、流動比率が約60ポイントも上昇し、**186.8%**に達しました。

これは「安全圏」を通り越し、もはや「何が起きてもビクともしない要塞」へと進化したと言っていいでしょう。

劇的改善の裏にある「2つの理由」

なぜ、これほどまでに数字が良くなったのでしょうか? 理由は明確です。

  1. 「現金」という最強の盾:第3回で見た通り、資産売却によって手元の現金が3,200億円から6,476億円へと倍増しました。これが流動資産を大きく押し上げました。
  2. 「身軽さ」という最強の武器:新光電気工業などの子会社が連結から外れたことで、それらの会社が抱えていた「短期的な支払い義務」も富士通の計算書から消えました。

結果として、**「すぐ使えるお金は増えたのに、すぐ払うべきお金は減った」**という、経営者からすれば理想的すぎる状態になったのです。


3. 深掘り分析:富士通の「在庫」の正体を暴く

ここで、皆さんが気になる「流動資産」の中身について少し詳しく見ていきましょう。

実は、流動比率には一つだけ弱点があります。それは、流動資産の中に**「棚卸資産(在庫)」**が含まれていることです。

富士通の在庫は、半年前の2,059億円から2,540億円へと、約481億円増えています。

「在庫が積み上がっているのは、売れ残っているからじゃないの?」

そんな不安を抱く方のために、IT業界特有の「在庫の中身」を解説します。

富士通の在庫、その「3つの正体」

富士通のビジネスモデル(セグメント情報)から分析すると、2,540億円の在庫の中身は主に以下の3つで構成されています。

  1. 出荷待ちのハードウェア(見える在庫):サーバー、ストレージ、ネットワーク機器、そしてパソコンなどです。これらは物理的な製品として倉庫に眠っています。
  2. 部品と原材料(作るための在庫):世界的な半導体不足などの経験から、将来の受注に備えて確保している電子部品などです。
  3. 開発中のシステム「仕掛品(しかかりひん)」(見えない在庫):実はIT企業で最も特徴的なのがこれです。顧客から依頼された大規模なシステム開発において、エンジニアが費やした人件費や外注費などが、完成(納品)するまでの間、一時的に「在庫」としてカウントされます。

在庫増加は「危険」か「期待」か?

今回の約480億円の増加は、決して「売れ残りの山」ではありません。

むしろ、富士通が注力しているDX(デジタルトランスフォーメーション)やAI関連の**大規模な開発案件が順調に動いており、完成を待っている状態(仕掛品)**が増えていると考えるのが自然です。

また、仮に在庫の換金性が低かったとしても、富士通はそれを遥かに上回る**6,400億円もの「現金」**を持っています。

在庫を一切売らなくても全ての流動負債を返せるほど余裕があるため、この程度の在庫増加は「ビジネスが活発に動いている証拠」とポジティブに捉えて問題ありません。


4. まとめ:富士通は「最も安全な」投資先の一つか?

今回の安全性分析を通して、私たちは富士通の「守りの硬さ」を再確認しました。

  1. 流動比率は186.8%:短期的な倒産リスクを測る指標は、半年前の126%から劇的に改善。理想とされる200%に迫る水準であり、資金繰りに死角はありません。
  2. 現金の厚みが圧倒的:流動資産の核が「現金」であるため、在庫などの不確実な資産に頼らなくても支払いが可能です。
  3. 在庫は「成長のエネルギー」:積み上がっている在庫の多くは、将来の利益に変わる「システム開発中のコスト」や「次世代サーバー」であり、懸念すべき売れ残りではありません。

あなたへのアクションプラン(ベビーステップ)

この記事を読み終えたら、以下のことを1つだけ実行してください。

  • 自分が持っている株、または気になっている企業の「流動比率」を計算してみる。(計算式:流動資産 ÷ 流動負債 × 100)

もし、この数値が100%を切っている企業があったら、要注意です。それは、来月のお給料を払うために、またどこかから借金をしてこなければならない「自転車操業」の状態かもしれません。

逆に富士通のように150%を超えていれば、あなたは枕を高くして眠ることができるでしょう。

次回予告:【株主還元分析】その企業は「稼いだ利益」を株主にどう返しているか?

「守り」も「攻め」も、そして「安全性」も分かりました。

次に私たちが知りたいのは、**「で、その潤沢な現金と利益を、どうやって私たち(株主)に分けてくれるの?」**ということです。

次回は、投資家の最大の楽しみである**「配当金」と「自社株買い」**について徹底分析します。

富士通が提示した「増配」の真意と、これから期待できる還元策の全貌を明らかにします。お楽しみに!


makoの投資判断:9/10点

【評価理由】

短期的な安全性(流動比率)は186.8%と、IT大手の中でもトップクラスの健全性を誇ります。特筆すべきは、資産売却によって手に入れた「現金」が流動資産の半分近くを占めている点です。これは、単に数字が良いだけでなく、質(換金性)が極めて高いことを意味します。不況への耐性は盤石であり、かつ今後の投資や株主還元に回せる「攻めの資金」も十分に確保されているため、満点に近い9点と評価しました。


免責事項

本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を勧誘するものではありません。記事内で紹介している数値や分析は、富士通株式会社の2026年3月期第2四半期決算短信(2025年10月30日発表)に基づいたAIによる解釈であり、将来の成果を保証するものではありません。投資の最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。

(出典:富士通株式会社 2026年3月期 第2四半期決算短信)

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