こんにちは、makoです。
「黒字倒産」という言葉がある通り、いくら利益が出ていても、支払いに必要な現金が手元になければ会社は潰れます。
逆に、多少赤字でも、現金が潤沢にあれば会社は生き延び、次のチャンスを掴めます。
企業の生存本能とも言える「現金の流れ」を記録したのが、**キャッシュ・フロー計算書(C/F)**です。
これを読めるようになると、
「この会社、利益は出てるけど、実は自転車操業だな……」
「おっ、この会社は見た目以上に大金持ちだぞ!」
と、**企業の「素顔」**が見えるようになります。
今回は、富士通のC/Fに現れた**「ある異常な動き」**に注目します。これを見逃すと、富士通の本当の戦略は理解できません。
1. キャッシュ・フロー(C/F)は「3つの財布」で読む
まずは理論です。C/Fは、お金の出入りを3つのカテゴリー(財布)に分けて記録します。
① 営業C/F(本業の財布):稼ぐ力
本業でどれだけ現金を稼いだか。
- プラスが絶対条件です。ここがマイナスなら、商売をするほど現金が減っている危険な状態です。
- イメージ: 給料や事業所得。
② 投資C/F(未来の財布):成長への投資
設備投資や株の売買によるお金の出入り。
- 通常、成長企業は工場を建てたりシステムを買ったりするので**「マイナス」**になります。
- もし**「プラス」**なら、持っている資産(工場や株)を売って現金化したことを意味します。
- イメージ: 家や車を買う(マイナス)、または売る(プラス)。
③ 財務C/F(借金の財布):資金の調整
銀行からの借入・返済、株主への配当など。
- 借金を返したり配当を出すと**「マイナス」、お金を借りると「プラス」**になります。
- イメージ: 住宅ローンを組む(プラス)、ローンを返す(マイナス)。
makoの優良企業パターン
一般的な優良企業は以下の形になります。
- 営業C/F:プラス(しっかり稼ぐ)
- 投資C/F:マイナス(将来のために投資する)
- 財務C/F:マイナス(借金を返し、株主に還元する)
2. 実践分析:昨年度とは「真逆」の戦略へ
それでは、実際のデータを見てみましょう。
今回は特に、「昨年度(前年同期)」との比較に注目してください。富士通の戦略が180度変わったことが一目瞭然です。
【富士通 キャッシュ・フローの劇的変化】
| 項目 | 昨年度(2024年4-9月) | 今年度(2025年4-9月) | makoの判定 |
| 営業C/F (本業の稼ぎ) | +1,360億円 | +1,676億円 | ◎ 順調に成長 本業で現金を稼ぐ力が増しています。 |
| 投資C/F (将来への投資) | ▲878億円 | +2,590億円 | !?(異常なプラス) 「投資する年」から「回収する年」へ変化しました。 |
| 財務C/F (借金・還元) | ▲263億円 | ▲1,148億円 | ○ 還元強化 借金返済や配当に使う額が4倍に増えました。 |
① 投資C/F「+2,590億円」の正体
昨年度はマイナス(=普通に投資していた)だった投資C/Fが、今年はとんでもないプラスになっています。
その理由は、第1回でも触れた**「富士通ゼネラルなどの株式売却」**です。
通常、投資C/Fがプラスというのは「お金に困って資産を切り売りしている(衰退)」と捉えられることもあります。
しかし、富士通の場合は違います。
**「古い家(ハードウェア事業)を高値で売って、手元に莫大な現金を用意した」**という、極めて前向きで戦略的な動きです。
② 財務C/F「▲1,148億円」の意味
大量に入ってきた現金をどうしたか?
昨年の4倍以上のペースで、**借金の返済(約470億円減)**や、**株主への還元(配当・自社株買い)**に使っています。
つまり、**「稼いだお金と、資産を売ったお金で、借金をキレイにし、株主にもしっかりお返しをした」**のです。
3. ライバル他社と比較する「現金の量」
ここで、もう一つ重要な視点を提供します。
「いま手元にある6,476億円という現金は、多いのか少ないのか?」
これを測るために、**「手元流動性比率(月商の何ヶ月分の現金を持っているか)」**を計算し、ライバルである日立製作所やNECと比べてみました。
【手持ち現金の月商比比較】
- 一般企業の適正値:1.0〜1.5ヶ月分
- 日立製作所・NEC:1.0〜1.5ヶ月分(効率的)
- 富士通:約 2.5ヶ月分(かなり多い)
なぜ富士通だけ、こんなに現金を持っているのか?
通常、効率的な経営をしている大企業は、現金を寝かせずにすぐ投資に回すため、1.5ヶ月分くらいが普通です。
しかし、富士通は2.5ヶ月分も持っています。
これは「お金が余って仕方ない」のではありません。
**「これから大きな買い物(M&Aや新規事業投資)をするために、意図的に積み上げている」**と見るのが正解です。
実は、今の業界の王者である日立製作所も、数年前に同じことをしました。子会社(日立化成など)を売却して巨額の現金を作り、その直後に1兆円規模の海外IT企業買収を行って大成功したのです。
今の富士通は、まさにその**「日立モデル」を追いかけている状態**。
「不用品を売って財布をパンパンにし、これから家具屋(M&A市場)に行こうとしている」
そんな**「嵐の前の静けさ」**が、このキャッシュ・フロー計算書から読み取れるのです。
このように、C/F計算書を見ると、企業が「今、何にお金を使おうとしているのか」「将来の準備はできているか」が手に取るように分かります。
特に、今回のように「投資C/Fがプラス」で「営業C/Fもプラス」という状態(フリー・キャッシュ・フローが爆発している状態)の企業は、その後、「大型買収」や「大幅な株主還元」といったビッグニュースを発表する可能性が高いです。
あなたがもし、こうした「変化の予兆」をいち早く掴みたいなら、過去のC/F推移をグラフでパッと確認できるツールを持っておくことが近道です。
「マネックス証券」の銘柄スカウターなどは、過去10年分のC/F推移が見られるので、「あ、去年と動きが違うぞ!」と一瞬で気づくことができますよ。
[▷ ここに「マネックス証券(銘柄スカウター)」などのテキストリンクを挿入]
※「お金持ち企業」や「変化の予兆」を見つけるなら、C/F分析機能が最強の武器になります。
4. まとめ:あなたが明日から見るべきポイント
今回は「キャッシュ・フロー計算書(C/F)」を通して、富士通の資金力を分析しました。
- 富士通のC/Fは、資産売却により投資C/Fが巨額のプラスになり、昨年度とは全く違う「資金回収モード」に入っている。
- 手元現金は月商の約2.5ヶ月分と、ライバル他社と比べても非常に潤沢に積み上げている。
- これは守りのためではなく、**次の大型投資(M&Aなど)に向けた「戦闘準備」**である可能性が高い。
あなたへのアクションプラン(ベビーステップ)
この記事を読み終えたら、以下のことを1つだけ実行してください。
- 自分が持っている株の「営業キャッシュ・フロー」がプラスかどうかだけ確認する。
これだけでいいです。もしここが2〜3年連続でマイナスの企業を持っていたら、すぐに逃げる準備をしてください。それは「血が流出し続けている」状態です。
次回予告:【収益性分析】ROEとROAを使いこなし、「稼ぐ効率」の本当の意味を知る
「お金持ちなのは分かった。でも、そのお金を上手に使えてるの?」
次回は、投資家が最も重視する指標**「ROE(自己資本利益率)」**を解説します。
富士通が、手に入れた巨額の資金をどれだけ効率よく増やせるのか? その実力(IQ)を測ります。
お楽しみに!
makoの投資判断:8/10点
【評価理由】
キャッシュ・フローの状況は「盤石」かつ「戦略的」です。本業で現金を稼ぐ力(営業C/F)が向上している上に、非中核事業の売却で莫大なキャッシュを手に入れました。現金を月商の2.5ヶ月分も確保している点は、一見すると「持ちすぎ」ですが、今後の成長投資(M&A等)への待機資金と考えれば、非常にポジティブな「攻めの準備」と評価できます。
免責事項
本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を勧誘するものではありません。記事内で紹介している数値や分析は、富士通株式会社の2026年3月期第2四半期決算短信(2025年10月30日発表)に基づいたAIによる解釈であり、将来の成果を保証するものではありません。投資の最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。
(出典:富士通株式会社 2026年3月期 第2四半期決算短信)