こんにちは。
前回は、企業の「稼ぐ力」を見る損益計算書(P/L)についてお話ししました。
しかし、投資の世界には**「黒字倒産」**という恐ろしい言葉があるのをご存知でしょうか?
いくらP/L上で「利益が出ています!」と叫んでいても、手元の現金が尽きてしまえば、企業はあっけなく倒産します。人間で言えば、**「見た目は元気そうに働いているけれど、実は血管がボロボロで、いつ倒れてもおかしくない状態」**です。
そんな隠れた病巣や、逆に強靭な基礎体力を見抜くためのツールが、今回解説する貸借対照表(Balance Sheet)、通称**B/S(ビーエス)**です。
これは企業の**「健康診断書」**そのものです。
これを読めるようになると、あなたは投資先を選ぶ際に、
「この会社は借金まみれで危険だな……」
「おっ、この会社は不況が来てもビクともしない『金持ち企業』だ!」
と、瞬時にリスクを見分けることができるようになります。
今回は、前回分析した富士通(6702)のB/Sを徹底解剖します。すると、単に数字が良くなっただけでなく、**「製造業を卒業し、デジタル企業へ生まれ変わるための『戦闘準備』」**が完了している姿が浮かび上がってきました。
あなたの資産を守るための「盾」を手に入れるつもりで、ぜひ最後までお付き合いください。
1. 貸借対照表(B/S)は「左右のバランス」で読む
まずは理論編です。「貸借対照表」なんて漢字ばかりで難しそうですが、仕組みはシンプルです。
B/Sは、真ん中で左右に分かれています。
右側:お金の「調達ルート」(どうやって集めた?)
右側は、会社がビジネスをするためのお金をどこから持ってきたかを表します。
ここはさらに上下2つに分かれます。
- 負債(Liabilities):銀行からの借金や、まだ払っていない代金など。いつか返さなければならない、いわば**「他人のお金」**です。
- 純資産(Equity):株主から集めたお金や、過去に稼いで貯め込んだ利益。返す必要のない**「自分のお金」**です。
左側:お金の「使い道」(何に変わった?)
左側は、調達したお金が今、どんな形になっているかを表します。
- 資産(Assets):現金、工場、在庫(商品)、土地、特許権など。これを使って将来の売上を作ります。
makoの比喩解説
マイホームの購入を想像してください。
右側(調達):頭金500万円(純資産)+住宅ローン3000万円(負債)。
左側(使い道):3500万円の家(資産)。
左右の合計金額は必ず一致(バランス)します。これが「バランスシート」と呼ばれる理由です。
もし、住宅ローン(負債)が多すぎて、家の価値(資産)が下がったら……家計は火の車ですよね? 企業も全く同じなんです。
投資家が絶対に見るべき指標:自己資本比率
ここで、最も重要な指標を一つだけ覚えてください。
**「自己資本比率」**です。
これは、全財産のうち、返さなくていい「自分のお金」がどれくらいあるかを示す割合です。
計算式は**「純資産 ÷ 総資産 × 100」**。
一般的に40%以上あれば倒産しにくい「優良企業」と言われます。
投資の神様ウォーレン・バフェットも、借金の少ない、財務がピカピカな企業を好みます。なぜなら、不況が来ても借金取りに追われず、逆にチャンスに変えられるからです。
2. 実践分析:富士通のB/Sが示す「要塞化」と「攻撃準備」
それでは、実際のデータを見てみましょう。
お手元の決算短信から、重要な数字を抜き出して比較表を作りました。
富士通の財務体質は、この半年で劇的に変化しています。
【富士通 貸借対照表の主要項目比較】
| 項目 | 2025年3月期末(半年前) | 2026年3月期 第2四半期末(今回) | 増減 |
| 総資産(左側) | 3兆4,978億円 | 3兆2,530億円 | ▲2,448億円 |
| 負債合計(右側上) | 1兆5,957億円 | 1兆2,618億円 | ▲3,339億円 |
| 純資産(右側下) | 1兆9,020億円 | 1兆9,911億円 | +891億円 |
| 自己資本比率 | 49.8% | 60.7% | +10.9ポイント |
(出典:富士通株式会社 2026年3月期 第2四半期決算短信)
この表を見た瞬間、私は思わず「おぉ……!」と声を上げてしまいました。
この変化には、単なる「健全化」を超えた、富士通の強烈な意志が隠されています。
3つのポイントで解説しましょう。
① 業界平均を突き放す「鉄壁の守り」
まず驚くべきは、自己資本比率が60.7%へ急上昇している点です。
これがどれほど凄いか、ライバルと比較してみましょう。
- 富士通:60.7%
- 情報通信業の平均:約54%
- 競合他社(日立・NEC等):約30〜40%
一般的にIT・製造大手は30〜40%あれば十分安全と言われます。その中で60%超えというのは、**「筋肉隆々のボディビルダーの中に、一人だけ重装備の騎士がいる」**くらい、圧倒的に防御力が高い状態です。
不況や金利上昇が来ても、富士通が潰れるリスクは極めて低いと言えるでしょう。
② 負債減少の正体は「家族の独立」
負債が約3,300億円も減っています。「一生懸命借金を返したんだな」と思うかもしれませんが、実は少し違います。
最大の要因は、グループ会社だった**「新光電気工業」などが連結から外れたことです。
これによって、子会社が持っていた借金も富士通の決算書から消えました。
つまり、「借金を持っていた家族が家から出て独立したので、世帯全体の借金が減った」**のです。
これは、富士通が「ハードウェア(モノ作り)」事業を切り離し、「デジタルサービス(コト作り)」へ集中するという**「ポートフォリオ変革」**を断行した結果です。単なる返済ではなく、会社の形そのものを変える手術が行われたのです。
③ なぜ借金を完済しない? 「攻めるための6,000億円」
一方で、手元の「現金及び現金同等物」は約3,200億円から6,476億円へと倍増しています。
ここで一つの疑問が浮かびませんか?
「そんなに現金があるなら、残りの借金も全部返してしまえばいいのに」
実は、ここ経営のプロの戦略があります。あえて借金を残し、現金を積み上げているのです。
- 時間を買うため(M&A):もし明日、素晴らしい技術を持つAI企業を買収するチャンスが来たとします。銀行の審査を待っていたらライバルに奪われますが、手元に6,000億円あれば**「即決」**できます。このスピードこそが、変化の激しいIT業界で勝つ鍵です。
- レバレッジ効果:今の日本の低金利(1〜2%)でお金を借りて、高収益なDX事業(Uvance)に投資して10%のリターンを出せば、差額の分だけ株主は儲かります。**「人のお金を使って、効率よく稼ぐ」**ための借金なのです。
つまり、この膨れ上がった現金と高い自己資本比率は、ただの「守り」ではなく、**「次の成長投資(UvanceやAI)へ一気に攻め込むための弾薬」**なのです。
ここまでの分析で、富士通という企業の「安全性」に関しては、以下のような結論が出せます。
「構造改革によって『鉄壁の財務』を手に入れ、同時に『攻めるための現金』も十分に確保した。いつでもアクセル全開で成長軌道に乗れる状態」
こうなると、投資家として次に気になるのは、「じゃあ、その溜め込んだ6,000億円もの現金を、どうやって株主に還元してくれるの?」という点ですよね。
財務が健全な企業は、増配(配当金を増やすこと)や自社株買いを行う余力が十分にあります。こうした「株主還元」の予兆をいち早く掴むためにも、企業の財務状況をチェックすることは非常に重要です。
もしあなたが、「配当金生活」や「堅実な資産形成」を目指すなら、こうした財務優良株を見逃さないためのツールが必須です。
特に、今回のような「自己資本比率の推移」や「現金の増減」をグラフでパッと確認できる証券会社のアプリは、忙しいあなたにとって最強の武器になります。
3. まとめ:あなたが明日から見るべきポイント
今回は「貸借対照表(B/S)」を通して、富士通の「鉄壁の守り」を分析しました。
要点を3つにまとめます。
- 富士通の自己資本比率60.7%は、競合他社(30〜40%)を圧倒する業界トップクラスの安全性。
- 負債の減少は、新光電気工業などの**「ハードウェア事業切り離し」**による構造改革の結果。
- 倍増した約6,400億円の現金は、借金返済ではなく、**成長事業(Uvance)への投資やM&Aのための「武器」**である。
あなたへのアクションプラン(ベビーステップ)
この記事を読み終えたら、以下のことを1つだけ実行してください。
- 自分の保有している株、または気になっている株の「自己資本比率」をチェックする。
証券会社のアプリやYahoo!ファイナンスの「企業情報」→「財務」タブで見られます。
もし30%を切っていたら、「ちょっと借金が多いかも? 不況に耐えられるかな?」と警戒レベルを上げてください。これだけで、大損する確率をグッと減らせます。
次回予告:【キャッシュ・フロー計算書】企業の「リアルな現金の動き」を追う
「利益は出た。資産も増えた。でも、本当にそのお金は手元にあるの?」
実は、会計上の利益と、実際の現金の動きにはズレが生じます。
次回は、嘘をつけない「現金の家計簿」である**「キャッシュ・フロー計算書(C/F)」**を読み解き、富士通が稼いだ6,400億円の現金の「本当の流れ」を追跡します。
ここを理解すれば、あなたはもう会計のトリックには騙されません。お楽しみに!
makoの投資判断:8/10点
【評価理由】
財務の健全性は文句なしの満点レベルです。自己資本比率60.7%は競合と比較しても頭一つ抜けており、不況耐性は極めて高いです。また、負債削減が「事業ポートフォリオの最適化(ハード切り離し)」とセットで行われている点も戦略的です。豊富な手元資金をテコに、成長領域(Uvance)へ機動的に投資できる体制が整ったことを高く評価し、8点としました。
免責事項
本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を勧誘するものではありません。記事内で紹介している数値や分析は、富士通株式会社の2026年3月期第2四半期決算短信(2025年10月30日発表)に基づいたAIによる解釈であり、将来の成果を保証するものではありません。投資の最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。
(出典:富士通株式会社 2026年3月期 第2四半期決算短信)