【第1回】損益計算書(P/L)は企業の「通知表」。富士通の利益6倍増のカラクリを見抜く【企業分析マスター講座】

こんにちは、makoです。

突然ですが、みなさんは「決算書」と聞いて、どんなイメージを持ちますか?

「数字が羅列されていて難しそう」「会計士じゃないから読めなくて当たり前」……もしそう思っているなら、少しだけ耳を傾けてください。

決算書を読めないまま株を買うというのは、**「中身の分からない福袋を、全財産をはたいて買う」**ようなものです。運が良ければお宝が入っていますが、最悪の場合、ゴミ同然のものをつかまされ、大切な資産を失ってしまうかもしれません。

「あの時、ちゃんと中身を見ておけばよかった……」

そんな後悔をしてほしくないのです。逆に言えば、決算書という「企業の通知表」さえ読めれば、危険な企業を避け、キラリと光るお宝企業を見つけ出すことができるようになります。それは、まるで未来を見通すレンズを手に入れたような感覚です。

今回から始まる全10回の「企業分析マスター講座(実践編)」では、私があなたの隣で、実際の企業の数字を見ながら、手取り足取り解説していきます。

記念すべき第1回は、企業の「稼ぐ力」を表す**損益計算書(P/L)です。

今回は、日本のIT大手「富士通」の最新決算を題材にします。なんと純利益が前年比で6倍以上になっているのですが、その「裏側」にある「400億円の臨時収入」と「断行された大改革」**のストーリーを一緒に読み解いていきましょう。

読み終わる頃には、あなたはただの数字の羅列から、企業のドラマを感じ取れるようになっているはずです。


1. 損益計算書(P/L)は「給与明細」と同じ?

まず、理論の解説から始めましょう。

損益計算書(Profit and Loss Statement)、通称P/L(ピーエル)。名前は難しそうですが、仕組みはあなたの**「給与明細」や「家計簿」と全く同じ**です。

伝説の投資家ウォーレン・バフェットは、企業の年次報告書を「ミステリー小説よりも面白い」と言って読み漁るそうです。なぜなら、そこには企業の「汗と涙の結晶」が記されているからです。

P/Lを読み解くポイントは、**「上から順に水が流落ちる滝」**をイメージすることです。

① 売上高(Revenue):企業の「人気投票」の結果

一番上にあるのが「売上高」。これは、商品やサービスがどれだけ売れたかを示す数字です。

家計で言えば**「額面の給料」**ですね。

ここが伸びていないと、そもそもビジネスとして社会から求められていない可能性があります。多くのプロ投資家が最初に見るポイントはここです。「人気のない店にお金は残らない」のと同じ原理です。

② 営業利益(Operating Profit):本業の「腕前」

売上から、原価(材料費など)や販管費(給料や家賃など)を引いたものが「営業利益」です。

これは、**「本業でどれだけ稼いだか」**を表す、最も重要な指標です。

家計で言えば、給料から生活費を引いて、手元に残ったお金。これがプラスでないと、生活(事業)は破綻しますよね。

③ 純利益(Net Profit):最終的な「手取り」

営業利益から、税金を払ったり、突発的な利益(土地を売ったお金など)や損失(災害など)を足し引きした、最終的な利益です。

これが**「株主の取り分」**の源泉になります。

makoのワンポイントアドバイス

初心者の方は「純利益」ばかり見がちですが、実は「営業利益」の方が重要です。なぜなら、純利益は「たまたま土地が売れた」だけで一時的に増えることがあるからです。「ラッキーパンチ」か「実力」かを見極めるのが、賢い投資家の第一歩ですよ。


2. 実践分析:富士通(6702)の「利益爆増」の正体

では、ここからが本番です。

実際に、ご提供いただいた**富士通株式会社の2026年3月期 第2四半期(2025年4月1日〜9月30日)**の決算短信を見てみましょう。

お手元の資料(添付ファイル)をもとに、私が重要な数字を抜き出して表にしました。まずはこの変化を見てください。

【富士通 2025年9月中間期 連結業績】

項目2024年3月期 2Q2025年3月期 2Q前年同期比
売上収益1兆5,521億円1兆5,665億円+0.9%
営業利益430億円1,053億円+145.0%
税引前利益433億円1,549億円+257.3%
純利益(親会社)356億円2,620億円+635.2%

「えっ!? 純利益が635%増? 6倍以上!?」

そう驚くのも無理はありません。これだけ見ると、「富士通はものすごく成長している! 今すぐ買いだ!」と思ってしまいそうですよね。

ですが、ここで立ち止まって考えるのが「分析マスター」への道です。

なぜこれほど利益が増えたのか? 昨年度と比べて彼らは何をしたのか?

私の分析フィルターを通して、この数字の「裏側」にある3つのアクションを解説します。

① 純利益+635%の正体は「400億円の資産整理」

最大の問題はここです。なぜ純利益だけ異常に跳ね上がったのか?

答えは、決算短信の9ページ、「(関連会社株式の譲渡について)」に書いてあります。

富士通は、グループ会社であったエアコンメーカー**「富士通ゼネラル」の株を売却しました。

これによる売却益が400億1,700万円**計上されています 5。

例えるなら、**「使わなくなった別荘(非中核事業)を売って、大金(一時金)が入ってきた」状態です。

なぜ売ったのか? 短信には「ポートフォリオ変革を加速させる」「収益性の高いデジタル・クラウドサービスへの投資に振り向ける」とあります 6。

つまり、単なるお小遣い稼ぎではなく、「古い資産を現金化し、新しい成長分野へ投資する」**という明確な意思表示なのです。

② 本業の「腕前」も昨年の1.8倍に

「じゃあ、別荘を売ったから儲かっただけ?」と思うかもしれません。

いいえ、実は本業の実力も驚くほど伸びています。

富士通は、一時的な損益を除いた実力を示す**「調整後営業利益」を公表しています。

これを見ると、昨年の660億円から1,213億円(前年比+83.6%)**へと急成長しています 7。

これは、以下の2つの「昨年度との違い」によるものです。

  1. 「サービスソリューション」への集中(筋トレ):昨年度はハードウェア事業などの整理を行っていましたが、今年度は企業のDXを支援する「サービスソリューション」事業が大きく稼ぎました。このセグメントだけで利益を約300億円伸ばしています 8。
  2. 構造改革の進展(体質改善):昨年度は事業構造を変えるために約307億円もの費用(痛み)を払っていましたが、今年度は約139億円まで減りました 9。手術が成功し、回復に向かっている証拠です。

③ 売上高「横ばい」の真実

売上収益は+0.9%と、ほぼ横ばいです。

これは、富士通が今、まさに**「ビジネスモデルの大転換」を行っているからです。

パソコンなどの「モノ売り」から、デジタルサービスなどの「コト売り」へ。売上の質を入れ替えている最中なので、全体の売上規模は大きく変わっていませんが、中身の「利益率(筋肉量)」**は確実に増えています。


ここまでの分析で、富士通という企業が今、以下のようなストーリーを描いていることが分かります。

  • Action 1: 富士通ゼネラルなどの株を売り、約400億円の資金を作った(選択と集中)。
  • Action 2: その資金とリソースを、稼げる「サービス事業」に注ぎ込んだ 。
  • Result: その結果、一時的な利益だけでなく、本業の利益も1.8倍に成長した 1

プロの投資家は、このように「一時的な400億円」と「本業の成長」を明確に分けて評価します。もしあなたが、こうした分析を瞬時に行いたいなら、優れた分析ツールを持つことが近道です。

無料でも使える優秀なスクリーニング機能や、今回のような「特殊要因」を除いたグラフが見られる証券口座を持っておくことは、投資家としての「必須装備」だと思いませんか?

今のうちに、情報収集に強い口座を一つ持っておくことを強くお勧めします。

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3. まとめ:あなたが明日から見るべきポイント

今回は「損益計算書(P/L)」を通して、富士通の決算を分析しました。

最後に、今回の要点を3つにまとめます。

  1. 純利益6倍増の大きな要因は、富士通ゼネラル株売却による約400億円の利益
  2. しかし、それを除いた本業の利益(調整後営業利益)も前年比8割増と絶好調 。
  3. 昨年度と比較して、**「古い資産の売却」と「成長事業への集中」**という改革が確実に成果を出している。

あなたへのアクションプラン(ベビーステップ)

この記事を読み終えたら、以下のことを1つだけ実行してください。

  • 自分が興味のある企業を1つ検索し、「純利益」が昨年より増えているか確認する。もし急増していたら、「何か資産を売ったのかな?」と疑ってみる。

これだけでOKです。この「疑う視点」を持つことが、投資家としての第一歩です。

次回予告:【貸借対照表】企業の「体力」と「倒産リスク」を見抜く

「利益が出ているから安心」とは限りません。実は、黒字なのに倒産する「黒字倒産」という怖い現象が存在します。

次回は、企業の健康診断書とも言える**「貸借対照表(B/S)」を読み解き、「この会社、明日潰れない?」**というリスクを見抜く方法を伝授します。

楽しみにしていてくださいね!


makoの投資判断:7/10点

【評価理由】

純利益の爆増は、約400億円の資産売却益という一時要因が含まれています 16。しかし、それを差し引いた本業ベース(調整後営業利益)でも前年比+83.6%と大幅増益を達成している点は見事です 17。昨年度からの構造改革が進み、「サービスソリューション」中心の稼げる体質へ変わりつつあります。変革のスピード感を評価し、7点としました。


免責事項

本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を勧誘するものではありません。記事内で紹介している数値や分析は、富士通株式会社の2026年3月期第2四半期決算短信(2025年10月30日発表)に基づいたAIによる解釈であり、将来の成果を保証するものではありません。投資の最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。

(出典:富士通株式会社 2026年3月期 第2四半期決算短信)


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