第4回:【収益性分析】ROEとROAを使いこなし、「稼ぐ効率」の本当の意味を知る ~ニデック、かつての高収益マシンが「年利3.5%」に劣化?~

こんにちは。

突然ですが、あなたに2つの投資話が舞い込んできたとします。どちらの経営者に大切なお金を預けたいですか?

  • A社長: 「1億円を投資してくれれば、1年間で1,000万円の利益を出してみせます!」
  • B社長: 「100万円を投資してくれれば、1年間で100万円の利益を出してみせます!」

利益の「額」だけ見ればA社長(1,000万円)の方が大きいですよね。

しかし、投資した元手に対する「効率」で見れば、B社長(利益率100%)の方が圧倒的に優秀です。A社長の利益率はたったの10%ですから。

株式投資もこれと全く同じです。

「売上が1兆円あるからすごい」とか「利益が100億円あるから安心」という見方は、残念ながら小学生レベルです。

大人の投資家は、**「私が預けたお金を使って、どれだけ効率よく利益を生み出してくれたのか?」**という「利回り」を見ます。

そのための最強のツールが、今回学ぶ**「ROE(自己資本利益率)」「ROA(総資産利益率)」**です。

今回分析するニデックは、長年「高収益経営」を掲げ、投資家から愛されてきたエリート企業でした。しかし、最新の決算データを分解していくと、その効率性が見るも無残な姿に変貌していることが判明しました。

今回は、プロの投資家が使う**「デュポン分析」**というメスを使って、ニデックの病巣を特定します。

お手元に決算短信PDFを用意して、一緒に「答え合わせ」をしながら進めていきましょう。


第1章:ROEとROAは「投資家のための通信簿」

まず、この2つの指標の意味を、直感的に理解しましょう。

1. ROE(Return On Equity):株主のための利回り

  • 計算式: 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
  • 意味: 株主が出したお金(自己資本)を使って、何%の利益を出したか。
  • 目安: 8%以上なら合格、10%以上なら優良企業。
  • 比喩: 「銀行の金利」のようなものです。あなたがニデック銀行にお金を預けたら、年利何%で増やしてくれますか?という数字です。

投資の神様ウォーレン・バフェット氏は、このROEが安定して高い企業(15%以上など)を好みます。複利の力で資産が雪だるま式に増えるからです。

2. ROA(Return On Assets):ビジネス全体のエンジン効率

  • 計算式: 当期純利益 ÷ 総資産 × 100
  • 意味: 借金も含めた「会社にある全てのお金(総資産)」を使って、何%の利益を出したか。
  • 目安: 5%以上なら優良企業。
  • 比喩: 「エンジンの燃費」です。工場や機械、借金も含めた巨大なシステム全体が、どれだけ無駄なく動いているかを表します。

第2章:ニデックの実践分析 ~「効率」の崩壊~

それでは、ニデックの2026年3月期 第2四半期(中間期)の決算短信から、必要な数字を拾って計算してみましょう。

(※中間期の数字なので、年換算するために利益を2倍にして簡易計算します)

【ニデック 収益性指標の実力値(2025年9月期)】

  • 親会社の所有者に帰属する中間利益: 311.9億円
    • 年換算予想:約623.8億円
  • 自己資本(親会社所有者帰属持分): 1兆7,594億円
  • 総資産: 3兆4,897億円

ここから導き出される、現在のニデックの「通信簿」はこちらです。

指標今回の推定値合格ラインmakoの評価
ROE(自己資本利益率)約 3.5%8.0%以上落第点。 投資家へのリターンとしては低すぎる。
ROA(総資産利益率)約 1.8%5.0%以上故障レベル。 巨体を持て余している。

ROE 3.5%の衝撃

見てください。かつてはROE 10%超えが当たり前だったニデックが、**推定3.5%**まで落ち込んでいます。

もしあなたがニデックの株主なら、こう思うべきです。

「私が預けた大切なお金を、たった3.5%の利回りでしか運用できないの? それなら、高配当株やS&P500のインデックスファンドに投資した方がマシじゃないか!」

この「効率の低下」こそが、最近の株価低迷の根本的な原因です。


第3章:【徹底解剖】なぜ効率が悪化したのか? ~決算短信1ページ目で謎を解く~

では、なぜROEがここまで下がってしまったのでしょうか?

これを解明するために、プロは**「デュポン分析」**という手法を使います。

ROEを3つの要素に分解して、犯人を特定するのです。

ROE = ①売上高純利益率 × ②総資産回転率 × ③財務レバレッジ

言葉だけだと難しいですよね。

ここからは、決算短信の1ページ目を見ながら、実際の数字を使って犯人探しをします。

(※お手元のPDFの1ページ目を開いてください)

① 売上高純利益率(稼ぐ力):【大暴落】犯人はお前だ!

これは**「売上のうち、最終的にどれだけ利益が残ったか?」**を見る指標です。

  • 見るべき場所: 1ページ目の上部「(1) 連結経営成績」の表
  • 計算式: 親会社の所有者に帰属する中間利益 ÷ 売上高 × 100

【今回のニデックの数値】

  • 分子(利益): 31,191百万円(表の一番右)
  • 分母(売上): 1,302,303百万円(表の一番左)
  • 計算: 31,191 ÷ 1,302,303 = 約2.4%

【比較(前年同期)】

  • 前年の利益は75,377百万円だったので、利益率は**約5.8%**でした。
  • 結論: 5.8%から2.4%へ半分以下に。構造改革費用(減損や引当金)で最終利益が削り取られた結果、稼ぐ力が激減しています。これがROE低下の**「A級戦犯」**です。

② 総資産回転率(資産を使う上手さ):【悪化】

これは**「会社にある全財産を使って、どれだけ売上を生んだか?」**を見る指標です。

体が大きくなったのに売上が増えていなければ、効率は落ちます。

  • 見るべき場所:
    • 売上高:1ページ目上部「(1) 連結経営成績」
    • 資産合計:1ページ目中部「(2) 連結財政状態」
  • 計算式: 売上高 ÷ 資産合計

【今回のニデックの数値】

  • 分子(売上): 1,302,303百万円
  • 分母(資産): 3,489,663百万円
  • 計算結果: 約0.37回

【比較】

  • 売上は「+0.7%(ほぼ横ばい)」なのに、資産は「+5.3%(約1,700億円増加)」と膨らんでいます。
  • 結論: 第2回・第3回で見た「在庫の増加」などが影響し、**「脂肪がついたせいで動きが鈍くなっている」**状態です。これもROEを下げる要因になっています。

③ 財務レバレッジ(借金の活用度):【上昇】

これは**「自分の金(純資産)の何倍の規模でビジネスをしているか?」**を見る指標です。

借金をしてビジネスを拡大すれば、この数値は上がります。

  • 見るべき場所: 1ページ目中部「(2) 連結財政状態」
  • 計算式: 資産合計 ÷ 親会社の所有者に帰属する持分

【今回のニデックの数値】

  • 分子(資産): 3,489,663百万円
  • 分母(純資産): 1,759,440百万円
  • 計算結果: 約1.98倍

【比較】

  • 前期末(1.93倍)よりも上昇しています。
  • 結論: 借入金を増やして現金を積んだことで、レバレッジ(てこの原理)は効いています。本来ならこれはROEを押し上げる要因ですが、今回は①の利益率低下が激しすぎて、焼け石に水です。

第4章:V字回復シナリオの「落とし穴」

会社側は、今回の構造改革(損失出し切り)によって、来期以降はV字回復すると説明しています。

この「デュポン分析」の視点で考えると、復活の条件は明確です。

  1. 利益率の回復(必須): 車載事業の赤字垂れ流しが止まり、利益率が5%~8%に戻ること。
  2. 資産のスリム化: 膨れ上がった6,000億円の在庫を現金に変えて、回転率を上げること。

これができれば、ROEは再び10%を目指せます。

しかし、ここで**「在庫評価の不適切会計疑惑」**という亡霊が現れます。

もし、第三者委員会の調査で「在庫の価値がない(=ゴミ)」と判定されたらどうなるでしょうか?

資産(在庫)を減らすために、さらに巨額の損失(評価損)を計上することになり、①売上高純利益率はさらに悪化します。

つまり、ROEは回復するどころか、マイナス(赤字)に沈むリスクさえ残っているのです。


第5章:まとめと次回予告

いかがでしたか?

決算短信の1ページ目を見るだけで、企業の健康診断がこれほど深くできることに驚かれたのではないでしょうか。

今回のニデックの収益性分析(ROE・ROA)のポイントは、以下の3点です。

  1. 効率性の崩壊:現在の推定ROEは約3.5%。合格ラインの8%を大きく下回り、投資妙味が薄れている。
  2. 犯人は「利益率の低下」:デュポン分析の結果、ROE低下の主因は「売上高純利益率の大暴落(5.8%→2.4%)」にあることが特定された。
  3. 資産効率も悪化:在庫などの資産が増えたことで「総資産回転率」も鈍化しており、二重苦の状態にある。

ニデックは今、高性能なスポーツカーなのに、泥道を走ってタイヤが空転している状態です。

泥(不正疑惑や不良在庫)を取り除いて、再び舗装道路(高収益体質)に戻れるかどうかが、今後の焦点です。

【今日のアクションプラン(ベビーステップ)】

この記事を読み終えたら、ご自身の証券アプリやYahoo!ファイナンスで、ニデック(6594)の「PBR(株価純資産倍率)」をチェックしてみてください。

  • PBR 1倍割れ(1.00倍以下): 市場から「解散した方がマシ(将来性ゼロ)」と思われている状態。
  • PBR 1倍以上: 将来の成長(高いROE回復)が期待されている状態。

現在のニデックのPBRがどちらに近いかを見ることで、市場が「復活」を信じているかどうかが分かります。

【次回予告】

「makoさん、稼ぐ効率が悪いのは分かったけど、やっぱり倒産しないかどうかが一番心配です」

「BSとかCFとか難しかったから、もっとシンプルに安全性を知る方法はないの?」

あります。

次回、第5回は**【安全性分析】編です。

自己資本比率だけでなく、「流動比率」や「当座比率」という指標を使って、ニデックの「短期的な支払い能力(数ヶ月以内に資金ショートしないか?)」**を徹底チェックします。

実は、BSの「流動比率」を見ると、ニデックの在庫問題がさらに深刻に見えてくるのです…。

次回も、数字の裏側にあるドラマを一緒に読み解きましょう。お楽しみに。


【makoの投資判断スコア】

評価:2 / 10点

(理由:ROE 3.5%という数字は、成長株としてもバリュー株としても中途半端で、投資資金を預ける魅力に欠けます。構造改革による一過性の低下である可能性はありますが、その改革(膿出し)が本当に完了したのか、第三者委員会の調査結果を待つ必要があります。不確実性が高く、資金効率も悪い現状では、投資対象としての優先順位は低いです。)


免責事項

本記事は、提供された2026年3月期第2四半期決算短信に基づき、情報の提供を目的としてAIが作成したものです。特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。記載内容は作成時点のものであり、将来の成果を保証するものではありません。特にROEやROAの算出は、中間決算数値を単純年換算した概算値を用いており、実際の通期実績とは異なる可能性があります。投資判断は、必ずご自身の責任において行ってください。

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