第3回:【キャッシュ・フロー計算書】企業の「リアルな現金の動き」を追う ~ニデック、巨額赤字でも「現金が増える」会計マジックの謎~

こんにちは。

「黒字倒産」という言葉がありますが、その逆もまた真なりです。

つまり、**「どんなに赤字でも、現金さえあれば会社は潰れない」**のです。

Amazon創業者のジェフ・ベゾスが、創業期に赤字を出しながらも株価を上げ続けたのは、彼が「利益」ではなく「フリー・キャッシュ・フロー(自由に使える現金)」を重視していたからです。

彼は知っていたのです。「帳簿上の利益」よりも、「今、財布にいくら入ってきたか」の方が、ビジネスを拡大する上では重要だということを。

今回分析するニデックは、第1回で見た通り、営業利益が8割減という壊滅的な決算でした。

普通なら「現金が枯渇してヤバイのでは?」と思いますよね。

しかし、キャッシュ・フロー計算書(CF)を開くと、そこには常識を覆す数字が並んでいます。

このカラクリを理解できれば、あなたは「表面的なニュース」に踊らされず、企業の「生命力」を正確に測れるようになります。

さあ、ニデックの金庫番になったつもりで、お金の流れをチェックしていきましょう。


第1章:キャッシュ・フロー(CF)計算書は「企業の家計簿」

まず、CF計算書の読み方を、小学生でもわかるように「お父さんの財布」に例えて解説します。

CFは、お金の出入りを3つの活動に分けて記録します。

  1. 営業活動によるCF(本業で稼いだお金):
    • 給料をもらった、食費を払った、など。
    • プラスが絶対条件。 ここがマイナスなら「働いてもお金が減る」状態です。
  2. 投資活動によるCF(将来のために使ったお金):
    • 家や車を買った、株を買った、など。
    • 基本はマイナス(支出) になります。成長企業はここにお金を突っ込みます。
  3. 財務活動によるCF(お金の貸し借り):
    • 住宅ローンを組んだ(プラス)、借金を返した(マイナス)、配当金を払った(マイナス)。
    • お金が足りない時はプラスになり、余裕がある時はマイナスになります。

そして、最も重要なのが**「フリー・キャッシュ・フロー(FCF)」**です。

「営業CF」+「投資CF」= FCF

これがプラスなら、会社は自由に使えるお金が増えている(=健全)ということです。

この基本を押さえた上で、ニデックのCFを見てみましょう。


第2章:ニデックの実践分析 ~赤字なのに現金ジャブジャブ?~

ニデックの2026年3月期 第2四半期(中間期)のCF計算書(決算短信P.12, P.20)から、衝撃の事実を抜き出しました。

【ニデック キャッシュ・フロー ハイライト(2025年4月~9月)】

項目金額(百万円)前年同期比makoの翻訳
営業CF+112,349+145億円えっ、増えてる!? 本業の現金収入は絶好調。
投資CF△67,125+26億円工場などの設備投資は継続中。
フリーCF+45,224+172億円手元に残るお金もしっかりプラス。
財務CF+40,517+457億円借金を増やして現金を確保した。
現金残高344,455+982億円期首から約1,000億円も現金が増加。

1. 最大の謎:なぜ営業利益「8割減」なのに、営業CFは「増えている」のか?

これが今回の最大の学習ポイントです。

PLでは営業利益が211億円(前年比△82.5%)しかありませんでした。

しかし、CFでは1,123億円もの現金が入ってきています。その差、約900億円。

なぜでしょうか?

答えは、前回学んだ**「減損損失」と「引当金」が『お金が出ていかない費用』だから**です。

  • 減損損失(約317億円): 工場の価値を帳簿上で下げただけ。実際に誰かにお金を払ったわけではありません。
  • 契約損失引当金(約365億円): 「将来の赤字」を見越して損失計上しただけ。まだ現金は出て行っていません(これから出ていきます)。

CF計算書では、こうした「現金が出ていかない費用」を、利益に**「足し戻す(プラスする)」**処理を行います。

その結果、PL上は大赤字に見えても、CF上は「おいおい、ニデックの稼ぐ力(HDDモータなど)は全然衰えてないじゃないか!」という真実が見えてくるのです。

つまり、「本業で現金を稼ぐエンジン」は壊れていない。

これが、ニデックが今すぐには倒産しないと言える最大の根拠です。

2. 投資CF:嵐の中でもアクセルを踏む

次に投資CFです。マイナス671億円。

これだけ巨額の赤字を出しても、設備投資(有形固定資産の取得)に約579億円を使っています。

これは「守りに入らず、成長への投資を続けている」とポジティブに見ることもできますが、一方で「車載事業の失敗で懲りているはずなのに、まだブレーキを踏まないのか?」という懸念も残ります。

3. 財務CF:銀行に頭を下げて現金を確保

最後に財務CFです。プラス405億円。

前年同期はマイナス(借金返済)でしたが、今期は大幅なプラス(借金増加)に転じました。

具体的には、長期借入金で約900億円を調達しています。

第2回で解説した「コミットメントライン(融資枠)契約」の話とつながりますね。

ニデックは今、なりふり構わず**「手元の現金を分厚くする」ことに全力を注いでいます。

「営業CFで稼げているから大丈夫」と過信せず、「万が一(不正調査の影響など)に備えて、借りられるうちに借りておこう」という、経営陣の強烈な危機感**がこの数字に表れています。


第3章:CFに見る「不都合な真実」 ~在庫がキャッシュを食いつぶす~

「なんだ、営業CFもプラスだし、現金も増えている。makoさん、やっぱりニデックは買いじゃないですか!」

そう思ったあなた。ちょっと待ってください。

CF計算書の中に、一つだけ**無視できない「警告サイン」**が点滅しています。

それは、営業CFの内訳にある**「棚卸資産の増減額(△409億円)」**です。

  • CFのルール: 在庫が増える=現金が減る(マイナス)。在庫が減る=現金が増える(プラス)。

ニデックはこの半年で、在庫を増やしたことによって、約409億円もの現金を「倉庫の中」に寝かせてしまいました。

前回、BS分析で「在庫が6,000億円に膨れ上がっている」と言いましたよね? CFでもそれが裏付けられています。

もし、この「増えた在庫」が売れない製品だとしたら?

せっかくHDDモータで稼いだ虎の子の現金が、価値のない在庫に姿を変えて、倉庫で腐っていくことになります。

「稼ぐ力はあるが、資金効率が悪化している(在庫にお金が吸われている)」

これが、CFから読み取れるニデックのリアルな健康状態です。


第4章:まとめと次回予告

いかがでしたか?

「赤字=現金がない」という思い込みが、いかに危険かお分かりいただけたと思います。

今回のニデックのキャッシュ・フロー(CF)分析のポイントは、以下の3点です。

  1. 本業の心臓は動いている:PL上の巨額赤字は「会計上の処理」によるものが大きく、実際の営業CF(現金の入り)は前年よりも増えている。倒産リスクは現時点では低い。
  2. 現金確保に必死:財務CFがプラス化し、手元現金を約1,000億円積み増した。これは将来のリスクに備えた「防衛策」である。
  3. 在庫という金食い虫:稼いだ現金の多くが「在庫の増加」によって相殺されている。この在庫が将来お金に変わるのか、ゴミになるのかが最大の焦点。

ニデックは今、**「出血(PL赤字)は酷いが、輸血(営業CFと借入)によってなんとか血圧(現金残高)を保っている」**状態です。

心臓は止まっていませんが、不健康な肥満(在庫過多)が悪化しています。

【今日のアクションプラン(ベビーステップ)】

この記事を読み終えたら、あなたが保有している銘柄の**「営業キャッシュ・フロー」をチェックしてください。

そして、「当期純利益」と比べてみてください。**

  • 営業CF > 当期純利益 なら健全。(利益の質が良い)
  • 営業CF < 当期純利益 なら要注意。(利益の割に現金が入ってきていない=粉飾や在庫過多の可能性あり)

「利益より現金」。この鉄則を忘れないでください。

【次回予告】

「makoさん、ニデックは稼ぐ力があるのに、なんでこんなに苦しんでいるの?」

「効率よく稼ぐって、具体的にどういうこと?」

次回、第4回は**【収益性分析(ROE・ROA)】編です。

投資の神様ウォーレン・バフェットが最も愛する指標「ROE」。

ニデックはかつて「高ROE企業」の代表格でしたが、今回の赤字でその数値はどうなってしまったのか?

そして、「稼ぐ効率」が悪化すると、株価はどうなってしまうのか?**

次回を読むと、あなたは「ただ稼ぐだけの会社」と「効率よく稼ぐエリート企業」の違いを見抜けるようになります。お楽しみに。


【makoの投資判断スコア】

評価:3 / 10点

(理由:営業CFが強力にプラスであることは、唯一の救いであり、加点材料です。本業の基盤(HDD等)が強い証拠であり、即座の資金ショート懸念は後退しました。しかし、「在庫によるキャッシュの圧迫」と「借金による現金の積み増し」は警戒すべき兆候です。PL/BSの悪さをCFがカバーしていますが、あくまで「延命」に見えます。調査結果が出るまでは、やはり手出し無用です。)


免責事項

本記事は、提供された2026年3月期第2四半期決算短信に基づき、情報の提供を目的としてAIが作成したものです。特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。記載内容は作成時点のものであり、将来の成果を保証するものではありません。投資判断は、必ずご自身の責任において行ってください。特に現在、当該企業は第三者委員会による調査中であり、財務数値が修正される可能性があります。

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