皆さん、こんにちは!
これまで数回にわたり、「集中力の高め方」や「効率的な記憶術」についてお話ししてきました。 「よし、これで英単語も年号もバッチリ覚えられるぞ!」と、やる気になっている方もいるかもしれません。
でも、ここで一度、立ち止まって考えてみましょう。 私たちは、一体何のために、それほど必死になって頭の中に知識を詰め込んでいるのでしょうか? テストで良い点を取るため? もちろんそれもあります。 誰かに自慢するため? それも悪くはありません。
しかし、300年前に生きたアイザック・ワッツが考えていた「記憶のゴール」は、もっと壮大で、もっとワクワクするものでした。彼は言います。**「記憶とは、精神の宝庫(トレジャリー)である」**と。
今回は、第3部の締めくくりとして、あなたの脳内にある「知識の倉庫」を、新しいアイデアを生み出し続けるキラキラした「宝箱」へと進化させる、最後の思考法についてお話しします。
「物知り」で終わる人、「知恵ある人」になる人
世の中には、驚くほどたくさんのことを知っているのに、なぜか話がつまらない人や、何か問題が起きた時に何も決められない人がいます。一方で、知識量はそこそこでも、いつも面白いアイデアを出し、賢い判断ができる人がいます。
この違いはどこにあるのでしょうか。 それは、記憶をただの**「倉庫(Storage)」として扱っているか、「材料(Ingredients)」**として扱っているかの違いです。
- 倉庫タイプ(物知り):知識をきれいに並べて保存することだけが目的。「1192年に鎌倉幕府ができた」という事実を、ホコリを被ったまま大事にしまっている状態。
- 材料タイプ(知恵ある人):知識を「料理の材料」として使う。「鎌倉幕府ができた時のリーダーの戦略(材料A)は、現代のクラス運営(材料B)にも使えるんじゃないか?」と、知識を冷蔵庫から取り出して調理する状態。
ワッツは、「記憶は、判断力を働かせるための材料を提供する」 と述べています。 私たちが記憶力を鍛える本当の理由は、テストの点数を稼ぐためではなく、「考えるための材料」を脳内にたくさんストックするためなのです。
知識は、思考の「レゴブロック」だ
「考える」という行為は、ゼロから何かを生み出す魔法ではありません。それは、頭の中にある「知識のブロック」と「知識のブロック」を組み合わせる作業です。
例えば、「新しい文化祭の企画を考えよう!」となった時。 頭の中に「何もない」人は、何も思いつきません。 しかし、記憶の宝箱の中に、
- 「テレビで見た面白いクイズ番組のルール」
- 「歴史の授業で習った昔の衣装」
- 「スマホアプリの流行りの機能」 といった「ブロック(記憶)」がたくさん入っている人は、それらをカチャカチャと組み合わせて、「スマホを使って、昔の衣装でクイズ大会をやろう!」という新しいアイデアを創造できます。
ワッツが**「心を豊かなアイデアで満たすこと」** を推奨したのは、このためです。 記憶力が良いということは、「思考のレゴブロックをたくさん持っている」 ということ。ブロックが多ければ多いほど、あなたはより複雑で、より独創的な「お城(アイデア)」を作ることができるのです。
記憶があなたを「豊かな人間」にする
そして、豊かな記憶は、あなたの人生そのものを豊かに彩ります。
ワッツは、記憶を整備することで、「会話において自分自身を楽しませ、友人を楽しませるための宝物を精神に備えることができる」 と言っています。 友達と話している時、映画のワンシーンを引用して笑わせたり、悩んでいる友達に偉人のエピソードを話して励ましたりできる。それは、あなたの記憶の引き出しに、素敵な「プレゼント」がたくさん入っているからです。
「暗記なんて面倒くさい」と思うかもしれません。 でも、その苦労して覚えた一つひとつの知識は、いつか必ず、あなた自身を助ける「武器」になり、誰かを楽しませる「話題」になり、新しい世界を切り開く「鍵」になります。
そう考えると、英単語一つ覚えるのも、未来の自分への「宝物」を一つ、宝箱に入れているような気がしてきませんか?
まとめ:第3部完了!脳という「宝箱」をいっぱいにしよう
今回で、第3部「記憶と集中」編は完結です。 最後にポイントを振り返ってみましょう。
第一に、記憶の目的は、単に情報を保存することではなく、「判断や創造のための材料」をストックすること。 第二に、記憶は思考の「レゴブロック」。たくさんのブロック(知識)を持っている人ほど、豊かで面白いアイデアを作れること。 第三に、学んだことを使える「知恵」に変えることで、あなたは自分も周りも楽しませる「豊かな人間」になれること。
明日からの勉強は、ただの「作業」ではありません。それは、あなたの脳という名の宝箱に、キラキラ輝く宝石を詰め込んでいく「冒険」です。 次回からは、いよいよ第4部。その蓄えた知恵を使って、他者とどう関わり、どう伝えていくかという「教育とコミュニケーション」の世界へ踏み出していきましょう。
【明日からできるアクションプラン】 今日、何か一つ「覚えたこと」や「知ったこと」に対して、心の中でこう問いかけてみてください。 「この知識、もし『使う』としたら、どんな時に使えるだろう?」 (例:「この物理の法則、バスケのシュートに使えるかも?」「この歴史の失敗談、部活の人間関係に活かせるかも?」) 知識を「倉庫」から出し、「使う」シミュレーションをする。それが、知識を知恵に変える第一歩です。