こんにちは。
「決算書なんて、難しくて数字の羅列にしか見えない…」
「ニュースで『過去最高売上』と聞いたから買ったのに、なぜか株価が下がって損をした…」
もしあなたが一度でもそう感じたことがあるなら、この記事はあなたの投資人生を変える転機になるはずです。
投資の世界には、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらが提唱した**「損失回避の法則(プロスペクト理論)」**という心理学の言葉があります。これは、「人は100万円儲かる喜びよりも、100万円損する痛みの方を2倍以上強く感じる」という性質のことです。
想像してみてください。あなたが汗水垂らして貯めた大切なお金が、企業の「見せかけの好業績」に騙されて、ある日突然半分になってしまったとしたら…。その精神的なダメージは計り知れませんよね?
逆に、もしあなたが企業の嘘を見抜き、暴落する前に「売り抜ける」ことができたり、本当に稼ぐ力のある「お宝銘柄」を誰も気づかないうちに見つけることができたらどうでしょう?
今日から始まる全10回の講座で、損益計算書(PL)という「企業の成績表」の読み方をマスターすれば、あなたはそんな「特殊なメガネ」を手に入れることができます。
記念すべき第1回は、世界No.1のモーターメーカーである**「ニデック株式会社(旧:日本電産)」**の最新決算(2026年3月期 第2四半期)を徹底解剖します。
今回のニデックの決算は、まさにミステリー小説です。
「売上高は過去最高なのに、本業の儲けが8割も消し飛んでいる」
「さらに、決算書の数字自体が信じられないかもしれないという疑惑がある」
この衝撃の事実の裏側には、投資家が絶対に知っておくべき「会計の落とし穴」と「企業の叫び」が隠されています。
さあ、投資家としてのレベルを一気に引き上げる旅に出かけましょう。
第1章:損益計算書(PL)は「企業の健康診断書」である
まず、ニデックという巨人を解剖する前に、メスとなる「知識」を少しだけ整理しましょう。
損益計算書(Profit and Loss Statement、通称PL)とは、一言で言えば**「その企業が1年間(あるいは四半期)でどれだけ稼ぎ、どれだけ使って、最終的にいくら残ったか」**を記録した動画のようなものです。
「売上」と「利益」、どちらが大事だと思いますか?
多くの初心者は「売上高(会社の規模)」や、ニュースで報じられる「最終的な純利益」ばかりを見てしまいます。
しかし、投資の神様ウォーレン・バフェット氏をはじめ、多くのプロ投資家が最も重視するのは**「営業利益」**です。
わかりやすく、私たちの「体」に例えてみましょう。
- 売上高(Revenue)=「摂取カロリー(食事の量)」
- 会社の規模を表します。たくさん食べる人は体が大きいですが、それが筋肉なのか脂肪なのかは分かりません。
- 営業利益(Operating Profit)=「筋肉量(基礎体力)」
- 売上から、原価や販売費(生活費)を引いた残りです。本業でどれだけ効率よく稼げたかを表す、企業の**「真の実力」**です。
- 当期純利益(Net Income)=「その日の気分(最終的な体調)」
- さらに税金や、土地を売った利益、災害による損失などの「臨時収入・臨時出費」を足し引きした最終結果です。
「売上は脂肪、営業利益は筋肉」
この言葉を覚えておいてください。いくら売上(脂肪)が増えて巨漢になっても、営業利益(筋肉)がなければ、その企業は不健康です。少しの向かい風で倒れてしまいます。
今回分析するニデックは、まさにこの「脂肪と筋肉」のバランスに異変が起きているのです。
第2章:ニデックの実践分析 ~数字が語る「構造改革」の痛み~
それでは、実際にニデック株式会社の「2026年3月期 第2四半期(中間期)」の決算短信を見ていきましょう。
ここからの分析は、まるでジェットコースターのような展開になります。まずは、主要な数字を整理しました。
【ニデック 2026年3月期 第2四半期(累計)業績ハイライト】
| 項目 | 金額(百万円) | 前年同期比 | makoの翻訳 |
| 売上高 | 1,302,303 | +0.7% | 過去最高を更新。体(規模)は大きくなっている。 |
| 営業利益 | 21,107 | △82.5% | 衝撃の8割減。 筋肉が急激に落ちた? |
| 税引前利益 | 30,344 | △69.5% | 営業利益の減少が直撃。 |
| 四半期純利益 | 31,191 | △58.5% | 最終利益も半分以下に。 |
1. 「過去最高売上」の正体
まず売上高を見てください。1兆3,023億円。前年同期比で0.7%増と、中間期としては過去最高を更新しました。
「おっ、成長しているじゃないか!」と思いますよね?
しかし、内訳をよく見ると、為替(円安効果)の影響を除けば、実は売上高は約379億円のマイナス要因を受けています。つまり、本業でバカ売れしたというよりは、「為替のマジック」と「一部の好調な事業(HDD用モータ)」が全体を支えている状態です。決して手放しで喜べる「成長」ではありません。
2. 営業利益「82.5%減」の衝撃
ここが今回の最大のポイントです。
売上が過去最高なのに、本業の儲けである営業利益が、前年の1,204億円から211億円へと、約1,000億円も消滅しています。
一体、何が起きたのでしょうか?会社のお金がどこかに消えたのでしょうか?
いいえ、違います。これは、ニデックが自らメスを入れた**「構造改革費用」**によるものです。
ニデックは今、急速に成長した「車載事業(EV用モータなど)」で大きな壁にぶつかっています。中国市場での価格競争激化などで、当初の計画通りに利益が出せなくなってしまったのです。
そこで会社は、「将来ダラダラと血を流し続けるより、今ここで手術をして膿(うみ)を出し切ろう」と決断しました。その手術代が、この利益激減の正体です。
では、その「手術」とは具体的に何なのか?
ここからが、今回の記事の核心部分、**「会計の専門用語に隠された3つの闇」**についての解説です。
第3章:【深掘り】投資家を震え上がらせる「3つの爆弾」
今回の決算短信には、投資家なら背筋が凍るような3つの事象が記されています。これらを理解しているかどうかで、あなたの「危険察知能力」は天と地ほどの差がつきます。
① 契約損失引当金(約365億円):地獄のサブスクを一括払い
まず一つ目が、主に車載事業(AMEC)で計上された約365億円の「契約損失引当金」です。
これを日常生活に例えるなら、**「絶対に解約できない、超高額な赤字サブスクリプション」**のようなものです。
- 状況: ニデックは顧客(自動車メーカー)と、「部品を〇個、1個100円で納品します」という長期契約を結びました。
- 問題発生: しかし、材料費の高騰や開発の失敗で、「1個作るのに120円かかる」状態になってしまいました。作れば作るほど、1個あたり20円の赤字が出ます。
- 会計処理: 会計のルールでは、「この契約を続けると、将来これだけの赤字が出ることが確定している」と分かった時点で、将来発生するはずの赤字を全て前倒しで、今の決算で「損」として計上しなければなりません。
つまり、ニデックは「これから数年間、車載部品を作るたびに出るはずだった赤字」を、365億円分まとめて「今期の損失」として処理したのです。
これは、「EV事業のコスト見積もりが甘かった」「安値で受注しすぎた」という経営判断のミスを認めたことと同義です。
② 減損損失(約317億円):フェラーリだと思って買ったら軽自動車だった
二つ目が、同じく車載事業などで計上された約317億円の「減損損失」です。
これは、**「高値で買った『稼ぐマシーン(工場や設備)』が、期待外れだったと認めて、価値を切り下げた」**ということです。
- 状況: 「EVブームが来るから、100億円かけて最新鋭の工場を作れば、毎年10億円稼げるはず!」と投資をしました。
- 問題発生: しかし、競争が激しく、思ったほど売れません。この工場からは毎年1億円しか稼げないことが判明しました。
- 会計処理: 「この工場はもう、当初予定していた100億円の価値はない」と認め、帳簿上の価値を実力に見合った額(例えば10億円)まで下げます。この差額(90億円)が「減損損失」として消えます。
ニデックは、工場や設備などの資産価値を約317億円分、「もう稼げない」と認めて切り捨てました。これは、「過剰投資」や「市場予測の失敗」を意味します。
③ 【最大のリスク】在庫評価の不適切会計疑義:腐った野菜を店頭に並べる?
そして、今回最も深刻なのが、決算短信に書かれた**「不適切な会計処理の疑義」と「第三者委員会による調査」**です。
具体的には「在庫の評価減の時期を恣意的に調整していた疑い」とあります。
これは一言で言うと、**「本当はもう価値がない『ゴミ』を、決算書の上ではまだ『宝』であるかのように見せかけて、赤字を隠していたのではないか?」**という疑いです。
- 本来のルール: 倉庫にある在庫が売れ残ったり、古くなったりして価値が下がったら(腐った野菜になったら)、すぐに「価値が下がりました(=損しました)」と正直に決算書に書き、処分しなければなりません。
- 今回の疑い: ニデックでは、経営陣が関与して、「今期に損を計上すると見栄えが悪いから、来期以降に回そう」といったように、損を認めるタイミングをわざと(恣意的に)遅らせていた可能性があります。
これがなぜ大問題なのか?
それは、**「投資家への裏切り」**だからです。
「腐った野菜」を「新鮮な野菜」として資産計上していれば、利益は実際よりも多く見えます。投資家は「この会社は利益が出ている」と騙されて投資してしまいます。
そして、後になって「実はあの時の利益は嘘で、本当は損していました」と発表された瞬間、株価は暴落します。
現在、弁護士などによる第三者委員会が「いつ、誰が、どれくらいの金額を操作したのか?」を調査中です。
つまり、今回発表された「利益8割減」という数字さえも、調査結果次第では「実はもっと悪かった」と修正される可能性があるのです。
第4章:セグメント別の明暗 ~優等生と問題児~
ニデックという巨大船の中には、「稼ぎ頭の優等生」と「瀕死の問題児」が同居しています。全体を見るだけでなく、内訳を見ることが重要です。
- 優等生:精密小型モータ(HDD用など)
- 状況: 生成AIの普及でデータセンターの需要が爆発し、HDD(ハードディスク)用のモータが絶好調です。
- 業績: 営業利益は前年比20.0%増の348億円。しっかりと「稼ぐ力(筋肉)」を見せつけています。
- 問題児:車載事業(EV用モータなど)
- 状況: かつて成長の柱と期待されたEV事業ですが、前述した通り「契約損失引当金」や「減損損失」の直撃を受けました。
- 業績: 結果、828億円の営業赤字(前年は195億円の黒字)に転落。稼いだ利益をすべて食いつぶしています。
「ニデックはもうダメだ」と一括りにするのではなく、「HDD事業などの稼げる事業は健在だが、EV事業の止血と、会計の不正問題という2つの重荷を背負っている」と解像度高く捉える必要があります。
第5章:まとめと次回予告
いかがでしたか?
「売上高過去最高」という見出しの裏側には、これほどまでにドロドロとしたドラマと、経営の苦悩、そして投資家を脅かすリスクが潜んでいました。
今回のニデックの損益計算書分析のポイントは、以下の3点です。
- 売上「過去最高」の魔法を解く:増収は為替と一部事業のおかげ。全体の実力は横ばいに近い。
- 利益激減は「過去のツケ払い」:「契約損失引当金(赤字契約の一括払い)」と「減損損失(設備の価値切り下げ)」により、約1,000億円が消えた。これはEV事業の失敗を認めた証拠。
- 最大の懸念は「信用の崩壊」:在庫評価に関する不適切会計の調査が継続中。決算書の数字そのものが、後から修正されるリスク(=不発弾)を抱えている。
今のニデックは、病巣を取り除く大手術の真っ最中です。
手術が成功して再び筋肉質な体に戻るのか、それとも出血が止まらず、さらなる不正が見つかるのか。まだ予断を許しません。
【今日のアクションプラン(ベビーステップ)】
この記事を読み終えたら、まずはご自身の証券口座のアプリやニュースサイトで、ニデック(6594)の「チャート」を見てください。
そして、決算発表があった「2025年10月下旬~11月」にかけて、株価がどう動いたかを確認してください。
「不祥事や巨額赤字が出たとき、市場はどう反応したのか?」
この値動きを目に焼き付けることこそが、あなたの「相場観」を養う第一歩です。
【次回予告】
「これだけ巨額の赤字を出して、ニデックの資金繰りは大丈夫なの?」
「もしかして、倒産のリスクがあるんじゃ…?」
そんな不安を感じたあなた、鋭いです。素晴らしい投資家センスをお持ちです。
「損益計算書」で稼ぐ力が分かっても、会社にお金が残っていなければ、企業は潰れてしまいます。
次回、第2回は**【貸借対照表(BS)】編です。
今回の大赤字で、ニデックの「企業の体力(現金や借金)」がどう変化したのか?
自己資本比率や現預金の動きから、「ニデックは安全なのか、それとも危険水域なのか?」**を徹底的に解剖します。
この分析を知らずにニデック株を持つことは、目隠しで高速道路を歩くようなものです。
次回の記事も、必ず読んでくださいね。
【makoの投資判断スコア】
評価:2 / 10点
【理由】
- 本業の強みは健在: 精密小型モータ事業はAI需要を背景に非常に強力な収益源となっており、この点だけを見れば魅力的です。
- ガバナンスリスクが致命的: しかし、それ以上に「不適切会計の調査中」という事実が重すぎます。投資の基本は「疑わしきは罰せず」ではなく「疑わしきには近寄らず」です。
- 不透明な先行き: 車載事業の構造改革(契約損失・減損)がこれで本当に終わりなのか、それとも「第一弾」に過ぎないのか、まだ見極めがつきません。第三者委員会の調査結果が出て、全ての悪材料が出尽くすまでは、安易な「逆張り(下がったところで買うこと)」は推奨できません。今は嵐が過ぎ去るのを待つのが賢明な大人の判断です。
免責事項
本記事は、提供された2026年3月期第2四半期決算短信に基づき、情報の提供を目的としてAIが作成したものです。特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。記載内容は作成時点のものであり、将来の成果を保証するものではありません。投資判断は、必ずご自身の責任において行ってください。特に現在、当該企業は第三者委員会による調査中であり、財務数値や過去の決算内容が修正される可能性があります。投資を行う際は、企業の公式サイト等で最新の開示情報を必ずご確認ください。